08.氷解-6
――その夜
嶺士は当然のように亜弓を求め、彼女もそれに応えた。
「ああ、気持ちいい! 亜弓、亜弓っ!」
「嶺士、イって、あたしの中で、お願いっ!」
「やっぱりおまえじゃなきゃだめだ。イ、イくっ! 出るっ!」
びゅくびゅくっ。どくっ!
そうしてそれから一晩平均二回ずつの激しいsexを二人は連日繰り広げた。正常位で、騎乗位で、後背位で、横になり縦になり、ベッドの上で転げ回りながら嶺士と亜弓はそれまでの身体の隙間や歪みを直すかのように何度も激しく求め合ったのだった。
それが六日続いて七日目の晩。
その日亜弓に生理が来た。
その晩も亜弓に挑もうと張り切っていた嶺士は、全裸になったままベッドの上で気が抜けたように言った。
「しばらくお預けか……」
「残念でした」
「生理中はやっちゃだめなのか?」
呆れたように亜弓は言った。
「ベッドが血だらけになって殺人現場みたいになっちゃうよ」
「そうか……」嶺士はふてくされたようにばたんと仰向けになった。
「少しインターバルを置こうよ。あたしけっこうへとへとなんだけど」
嶺士はイライラしたように言った。「欲情してるんだよ、おまえに」
亜弓は困ったように言った。
「ほぼ一週間、毎晩。それも平均二回。こんなこと今までなかったのに」
「生理が終わったらまたやるからな、連日」
「マジで?」
「俺の気が済むまで」
亜弓は切なげに眉尻を下げ、申し訳なさそうに小さな声で言った。「もう嶺士ったら……」
嶺士は亜弓の顔を覗き込んだ。「嫌か?」
亜弓は頬を赤らめた。
「嫌なわけないでしょ」
嶺士はその恥じらったような顔にまた欲情の度合いを強め、亜弓の身体をぎゅっと抱きしめた。「亜弓ー」
亜弓は嶺士の耳元で蚊の鳴くような声で言った。
「口でやってあげようか?」
「いや、いい。かえって欲求不満になる。フィニッシュはおまえの中じゃなきゃ収まらないんだ。俺、何度でも抱き合って、繋がって亜弓の中でイきたい」
「ごめんね、嶺士。数日我慢して」
嶺士はにっこり笑って頷いた。
「ねえ、嶺士」
「どうした?」
「ずっと聞きそびれてたことなんだけど……」
「ん?」
嶺士は肘を突いた左手で頭を支え、亜弓に向き直った。
「あたしと智志君が抱き合ってるの、あなたずっと見てたんでしょ?」
「ああ」
「どうして乱入して制止しなかったの?」
嶺士は仰向けになり、上目遣いでしばらく考えた後、言った。
「俺もどうしておまえたちのあの現場をずっと見てただけで何もしなかったんだろう、って不思議に思ってた」
「あたし、気が気じゃなかったよ。嶺士が気づいて智志君に飛びかかって来るんじゃないかって」
「一つ言えることは、それが智志だったからだ」
「どういうこと?」
「俺の知らない男がおまえとやってたら間違いなく即座に乱入して引き離して、そいつを瀕死の状態まで追い込んでた」
「なんで智志君だと許せたの?」
「いや、許せてた訳じゃない。何て言うか……拳じゃなくて話で決着がつけられる相手だから、って思ったんだろうな。無意識に」
「そうなんだ……」
「もちろんあの時は嫉妬で身体の中が煮えくりかえっていたのも確かだけど」
「……そうだよね、無理もないよ」
嶺士は亜弓の髪を撫でながら言った。