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「そば屋でカレーはアリですか?」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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08.氷解-7

「それに、ずっとおまえの相手をしてやれなかったっていう後悔の気持ちもあって、いつになく乱れて喘いでるおまえが不憫でもあった」
「自分を責める気持ちもあったんだね、嶺士」
「おまえや智志に対しての怒りは、実は俺自身に向けて抱いてた感情だったんだよ、たぶん」
「ごめんなさい……」
「なんでおまえが謝る?」嶺士は亜弓の頬を両手で包み、自分に向けた。「謝らなきゃいけないのは俺だよ」
「でも……」
「なんか……あの時、おまえを抱いて繋がってる男が、いつの間にか俺自身とダブって見えてた。亜弓は俺に抱かれて喘いでるんだ、って錯覚してた。だから俺、頭と身体が混乱しちまって、いたたまれなくなって二階に上がったんだ」
 亜紀は涙ぐんで嶺士の胸に顔を埋め、くぐもった声で言った。
「ごめんね、嶺士」
「俺の方こそ」
 嶺士は亜弓の頬をそっと撫で、柔らかなキスをした。

「亜弓」
「ん?」
「明日さ、俺も早起きするから、一緒に朝メシ作ろうぜ」
 亜弓は怪訝な顔をした。
「え? なに、いきなり……」
「それから洗濯のやり方も」
「どうしたの? 嶺士、なんで急にそんなこと言い出すの?」
 嶺士はほんのり頬を赤らめた。
「またおまえが俺に愛想尽かして家を出ていった時に困らないようにだよ」
 亜弓は破顔一笑した。
「そういう理由? だったら教えない」
「なんでだよ」
「嶺士が家事に困ってあたしに泣きついてくることがなくなったんじゃ、家出する意味ないでしょ?」
「うそうそ!」嶺士は焦ったように言った。「じょ、冗談だって。お、おまえが具合悪くて寝込んだ時とかに、俺が代わりに家事ができるようにだよ」
 亜弓はじっと嶺士の顔を見つめ、数回目をしばたたかせた。嶺士は思わず目をそらし、小さな声で言った。
「も、もう家出なんかしないでくれよ。俺、おまえに愛想尽かされることなんか絶対しないから……」
 亜弓も小さな声で言った。
「あの時はあたし、あなたに愛想尽かしたわけじゃなくて、なんかこの家にいるのが苦しくて衝動的に出て行っちゃったの。ごめんなさい……」
 嶺士は眉尻を下げ、ふっと笑った。
「今回の事件で、俺、思った」
「何を?」
「洗濯や食事の仕度はもちろんだけど、いろんなことをおまえ任せにし過ぎてた、って」
「気にしないで。あたし専業主婦だし、そんなの平気よ」
「いや、なんか結婚してからずっと俺のペースでおまえを振り回してた感じがするんだ」
「そうなの?」
 嶺士は頷いた。
「自分は外で働いて、亜弓は主婦で家のことをやる、って当然のように思ってた」
「あたしは夫が家事を進んでやってくれるのをあんまりいいことだと思わないな」
「どうして?」
「だって、言ってみれば夫婦の分業でしょ? 妻に気を遣って夫が媚びるように家事をやるなんて不自然だよ。あたしは嶺士にそんなことをしてもらってもちっとも嬉しいと思わない」
「でも……」
「もちろん共働きになったら家事も二人でシェアするべきなんだろうけどね」
 亜弓は嶺士の手を握った。
「あなたがさっき言ってくれたように、洗濯のやり方とか、炊事とかのやり方を知ってるだけでいい。時々気が向いた時に手伝うぐらいでいい」
「そうなのか?」
「うん。家事自体を辛いなんて思ったことはない。でもそれがどういうことなのかを嶺士が知っていた方があたしは安心できる。そういうことでいいでしょ?」
 亜弓はにっこり笑った。
「わかった。それでいい。俺、しばらくおまえと一緒に家のこと、いろいろやって覚えるよ」
「あんまり詳しくなり過ぎないでね」
「どうして?」
「あたしのやり方にケチ付けられるのは嫌だもん」
「そんなに器用じゃないよ、俺」
 嶺士は笑った。
「あたしは嶺士が外で働いていることに感謝する、嶺士はあたしの家事を理解してくれる。要するにギブ・アンド・テイク。それでいいんじゃない?」
「ギブ・アンド・テイク。そうだな。それが大人の常識ってもんだな」
 亜弓は嶺士の裸の身体をぎゅっと抱きしめて、その胸に顔を埋めた。
「好き、嶺士」
「俺もだ、亜弓」
 嶺士は亜弓の髪を優しく撫でながら抱いた腕に力を込めた。


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