07.真相-4
「一昨日、貴男が嶺士に想いを寄せていることを知りました」
「一昨日?」
「はい。シンチョコにこれを買いに行った時、マユミ先輩から」
「そう、聞いてくれたんだ……」
あたしは壁の棚から小ぶりのチョコレートの箱を取り、彼の前に置きました。「お土産です」
「ありがとう、いつも」
智志君は恐縮したように言ってその包みを自分の手元に置き直しました。
智志君はコーヒーを一口飲みました。
「いつカミングアウトしたんですか? マユミ先輩に」
「君たちが結婚してすぐの頃だったかな」
「あたしたちの結婚式に来てくれなかったのは、嶺士と顔を合わせたくなかったから?」
「うん。嶺士が愛する女性とずっと並んでいるのを見るのが辛いと思ったから……」
「ごめんなさい」
「亜弓ちゃんが謝ることじゃないよ。俺の一人芝居」
智志君はカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲みました。
「だいいち君を恨む気持ちは全然なかったし、今もそうなんだ」
「そうなんですか?」
「君が女性だからかな」
「他には誰かに?」
智志君は首を振りました。「いやマユミ以外には誰にも言ってない。今まで誰にも」
「そうですか」
「そう言えば嶺士は高校の頃ユカリとつき合ってたの知ってるだろ? 君はいつから嶺士のことを?」
「入学してから」
あたしもコーヒーを一口飲みました。
「へえ、じゃあ、ユカリと別れることを期待してたってこと?」
あたしは笑いました。「そんな大それたこと考えてません。正直そうなって欲しいとは思ってましたけど、当時彼は人気者だったから、あの人がユカリ先輩と別れたとしても、あたしとつき合ってくれるなんてかけらも思ってませんでした」
智志君は遠い目をして言いました。
「俺は高校に入学して、嶺士と出会ってから少しずつあいつへの想いが膨らんでいった。でも、さっきも言ったけどそれは不純な想い」
「不純?」
「以前に女の子とつき合ったこともあるし、sexしたいとも思ったこともあるから、俺は純粋なゲイじゃない。でも中学の時につき合ってた彼女と良い感じになって、夏休みに挑んだけど失敗して、その後話がこじれて……」智志君は辛そうな顔で唇を噛み、続けました。「辛いことが重なって、もう女の子とつき合うことが怖くてできなくなったんだ」
「それも少し聞きました。マユミ先輩に。ごめんなさい、あれこれ貴男のことを聞き出しちゃって」
智志君は穏やかに首を振りました。
「俺がマユミに頼んでたんだ。いつか折を見て嶺士の奥さんである君に、俺のことを何もかも話してくれ、って」
「はい、マユミ先輩もそう言ってました。それに今回智志君がうちを訪ねて来た時に、何か行動を起こすかも知れない。それがとっても心配だ、とも」
「高校時代からそうだったけど、マユミは勘がいいね」
智志君はひどく申し訳なさそうな顔をしました。
「あたしなりに考えたんです。昔の女の子とのお付き合いが原因でそういう気持ちになっているのなら、そのこわばりをほぐしてあげれば貴男の嶺士への思いも変わるかも知れないって」
「そう」智志君は切なげに笑いました。「若いから身体はムラムラする、でも女の子とは怖くてsexなんてできない。俺が嶺士に歪んだ感情を持ち始めたのは、確かにそれも大きな原因だったのかもしれないね」
「その、」あたしは思い切って訊いてみました。「それほどの出来事って、いったい……」
「俺の女性恐怖症の原因?」
あたしは頷きました。
「このことはマユミにも話してないんだけど」
はあ、と重いため息をついて智志君は話し始めました。