05.謀計-3
「そっか、じゃあこんなところじゃなくて居酒屋の方が良かったかな」
「いいよ。別に。どこでも」
「さてと、」ユカリはテーブルに両肘をついて笑顔を嶺士に向けた。「吐き出しなさいよ。何でも訊いてあげる」
呆れたように小さなため息をついて、嶺士はぼそぼそと口を開いた。
「亜弓が俺の目の前で別のオスと交尾した」
「なによ『交尾』って、生々しい言い方」
「俺は敗北したオスだからな」
「相手は?」
「智志」
ユカリはびっくりしたように目を見開いた。
「ええ? 智志? 宮本智志? な、なんでまたそんなことに……」
嶺士はあの夜自分が目にしたことごとくをユカリに洗いざらい吐き出すように語り尽くした。途中、喉が渇いて何度もビールを追加していたので、話し終わった途端、嶺士は慌てたようにトイレに立った。
テーブルに戻ってきた嶺士を見上げてユカリは言った。
「大丈夫?」
「平気だ。吐くほどは飲んでない」
それでも嶺士の足は少しふらついていた。
「そう言えばおまえ」
「何?」
「結婚は?」
「まだよ」
「彼氏はいないのか?」
ユカリはほんの少しだけ考えた後、答えた。
「いるわよ。つき合ってる男」
それを聞いた嶺士は険しい目をして言った。
「ユカリ、もう一軒俺につき合え」
「ふふ、いいわよ」
ユカリは口角を上げて嶺士を見上げた後、バッグを持って立ち上がった。嶺士はその細い腕を掴んで慌てたようにテーブルを離れた。