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「そば屋でカレーはアリですか?」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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05.謀計-2

 スイミングスクールから帰宅した嶺士は、家の中がしんと静まりかえっているのに軽い恐怖心を抱いた。
「けっ! 勝手にしろ!」
 彼はわざと大声で言って乱暴に靴を脱ぎ、荷物をそこに放り出した。
 キッチンのゴミ箱が溢れそうになっていたので、彼はビニールのゴミ袋ごとそれを引っ張りだし、口を結んだ。
「ん? なんだ? これ」
 嶺士はその透明な袋の中程に黄色い薬の箱と錠剤が納められていた銀色のPTPシートを発見した。
「何の薬だ? 見たことないな……」
 その薄い箱にはアルファベットで商品名が書いてあるが、嶺士が聞いたことのない名称だった。
「『ノル……レボ』?」
 嶺士はしばらく手を止めてその箱を見ていたが、時々亜弓が訴える片頭痛の薬か何かだろうとあまり真剣に考えずその袋を表のゴミ集積場に運んだ。
 リビングに戻った嶺士はソファにばたんと横になった。
「夕飯、どうすっかな……」
 天井の灯りをぼんやりと見ながら呟いたとき、嶺士のスマホの着信音が鳴り響いた。
 嶺士はバネのように飛び起きて、カーペットに足を取られながら玄関まで走り、慌ててバッグに手を突っ込んでスマホを取りだし、ディスプレイを見た。
「なんだ、亜弓じゃないのか……」登録していない番号だった。嶺士はひどく落胆したようにため息をついて受話ボタンをタップした。
「(嶺士ー、あたしよ)」無駄に大きな、わざとらしい甘ったれた声がした。
「誰だ?」
「(声を聞いても思い出せないぐらい疎遠になったってこと? 寂しいなあ……)」
「だから、おまえ、誰なんだ」嶺士はイライラして言った。
「(ユカリ。あんたにバージンを捧げたユカリ)」
 嶺士は一気に噴きだした額の汗を焦ったように拭い、スマホを持ち直した。
「ユ、ユカリ、な、何の用だ? いきなり」
「(いやなに、あんたと久しぶりに会って飲みたいと思ってさ。どう? 今から)」
「え? い、今から?」
「(もう愛する奥さんと食事してたのかしら? 都合が悪いんだったら断って)」
 嶺士は少しの間考えて、決心したように言った。
「わかった。今からな。どこで待ち合わせする?」
「(あれ? いいの? かわいい奥さんの亜弓ちゃんに何て言い訳するつもりなの?)」
「いいんだよ、あんなヤツ」
 嶺士は電話の向こうでユカリがふふっと笑ったような気がした。
「(あんたがそう言うんなら。じゃあ、駅の西口の天使の噴水の所にいるから)」
「すぐ行く」

 駅裏の通りに面したビルの四階にあるラウンジの窓際のテーブルにユカリと嶺士は向かい合って座った。
「久しぶり、嶺士。元気だった?」
「あんまり」
 ユカリは吹き出した。
「あはは! 相変わらず正直者。嘘がつけない自分がよくわかってるじゃない」
「学習したんだよ。お前とつき合って、別れてからな」嶺士はむっとして言った。
「なんで元気ないの? 奥さんの亜弓がらみ?」
「な、なんでわかる」
「だって、電話で『あんなヤツ』なんて言ってたし、こんな時間に急に誘っても街に出てこられてるし」
「確かに……」
 嶺士は肩をすくめてビールの注がれたグラスを煽った。
「ビール、好きなの?」
「専らな。カクテル系は苦手だ。ワインなんか特に大嫌いだ」
「何よそれ。ワインが好きかなんて訊いてないでしょ?」
 嶺士は不機嫌そうな顔でビールのグラスを煽った。
「でも亜弓ちゃんはワイン党だって聞いたよ?」
「なんでそんなこと知ってる?」嶺士は上目遣いでユカリを睨んだ。
「ちょっと前にシンチョコ訪ねた時、マユミが言ってたのよ」
「へえ……」嶺士は面白くなさそうに眉を動かした。
「二人違うお酒飲んでるわけ? 食事の時」
 ふん、と鼻を鳴らし嶺士は困ったように口を結んで、テーブルに置かれたビール瓶を自分のグラスに傾けた。


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