第25話 『しっぽとり、借り物競走、クラス対抗リレー』-1
第25話 『しっぽとり、借り物競走、クラス対抗リレー』
体育祭も終盤に入り、生徒たちが得点板を見る回数が増える。 クラスが優勝した場合、学園の内申書に『体育祭優勝に貢献』と記すことができるので、体育祭の勝利には唯の名誉以上の価値がある。 内申書や履歴書を埋めることは、そう簡単ではなく、かといって埋められなければ進路が大きく制限されるためだ。 ちなみに南原も官公庁でAランク女性を採用面接することがあるが、経歴、資格欄に1つでも空白があれば、その時点で採用対象から外す内規がある。
現在、総合1位は2組。 僅差で1組が続く。 3組はかなり水を開けられている。 残すところ競技は3つだ。
プログラム23番、『しっぽとり』、Cグループ生による選抜競技。
グラウンド中央に白線で描いた大きな土俵が現れた。 各クラス10名土俵に入る。 少女たちは、剥き身の尻から縄で出来た尻尾を垂らしていた。 縄の一端は肛門に続き、くすんだ蕾の中に消える。 小ぶりな尻の付根が盛り上がっているのは、足と括約筋に力を籠め、縄を全力で締めつけているせいだろう。
競技が始まり、少女たちは固まって土俵の際からそろそろ進む。 時折1人が猛然と他クラス生徒にダッシュしたり、その生徒を囲むべく他クラスが動いたり、しばらく生徒同士の駆け引きが続く。 やがて集団が崩れたと思うと、くんずほぐれつの乱戦になった。 背後に回り、尻尾を引き抜こうと手を伸ばす。 ただし抜かれる側もそうはさせじと尻を窄めるので、簡単には抜かせてくれない。 腕に縄を巻き付けて引き抜くものから、尻ごと引きずって抜くものまで、土俵内はキャットファイトの様相を呈する。 そんな中2人がかりで地面に抑え込み、尻から縄を引き抜いたり、これ見よがしに駅弁スタイルに掲げてからすっぽ抜いたり。 最終的には1組が圧勝した。
プログラム24番、『借り物競走』、Bグループ生による選抜競技。
グラウンドを一周してから『借り物』がかかれたカードをめくり、指示にあるものを客席から借りてゴールする、古典的な遊戯系競技だ。 南原が所在なげにしていると、教頭が携えた小箱を見せに来た。
「それは?」
「はい。 本競技で使用する『借り物カード』のスペアですわ。 生徒たちが来賓のみなさまに物をお借りするケースもありますから、事前に一読していただければ、と思いまして持参いたしました」
「ほう。 拝見しましょう」
「どうぞ」
南原は厚手の板紙に刺繍が施された、仰々しいカードを手に取った。 カードを裏返すと、金箔文字が添えてある。 見た目の煌びやかさと裏腹に、下品としかいいようのない文字が並んでいた。 『来賓の陰毛』『来賓の唾液』『来賓の痰』『来賓の鼻糞』『来賓の目糞』『来賓の臍護摩』『来賓の垢』『来賓の爪垢』――最後までカードをめくることなく、南原は箱を教頭に返した。
「もう少しマシな物を借りに来てくれるなら、相手のしようもありますが。 これじゃ協力する気も湧かないですよ」
「ですから、生徒も必死で借りようとします。 競技として成立させるためにも、簡単に借りれてしまわないよう、皆さまが『貸してもいい』と思えるまでアピールさせてやってていただければ、と」
教頭は真顔だ。
「どの来賓の方々もお持ちの品、となると選択肢は限られます。 その上、生徒は膣でお借りした品を運びますから、生徒のはしたない汁がついても構わないものでなくてはなりません。 これらの選択肢に、どうぞご理解のほどをお願いします」
「……別に、理解しないとはいいませんがね。 時に、借り物競走ということですが、まさか貸したモノを返しにきたりはしないでしょうね」
南原は『痰』『唾液』『鼻糞』といったカードを教頭に見せた。 教頭が被りを振る。
「あのね、『痰』ですよ『痰』。 こんなものまで返しにくるとでも?」
「返却が原則です。 来賓の皆様の貴重な黄金を、黙って頂くなど認められませんわ。 ただし皆さまの許可が出れば、その場で下賜してくださっても構いません。 生徒も喜ぶことでしょう」
「……」
南原は返事をしなかった。 競技は既に始まっていて、周回を終えた少女たちが、次々にカードをめくり、来賓テント目指して駆けてくるところだ。 一番最初に到着した少女は、息堰きって駆け付けるなり、ブリッジ気味なM字型に開帳し、手近な来賓に懇願した。
「失礼を承知でお願い致しますっ……! はぁはぁ、ど、どうか私めの緩くてはしたないチツマンコに、あの、お清めの『唾』を垂らしていただけませんでしょうか……っ!」
ぐいぐい、迫る股間に対し、来賓は苦笑するばかりだった。 みなが南原の様子を伺い、自分から動こうとはしない。 というのも、来賓メンバーを序列づけるなら、南原が群を抜いて1位になる。 そんな南原を差し置いて来賓として振舞うことは、学園祭に招かれた立場とはいえ、一般来賓客には荷が重い。
「し、失礼を承知でお願いいたしますっ、どうか私めの真っ黒で見苦しいチツマンコに、はぁはぁ、どなたか禊の『痰』を注いでいただけませんでしょうか!」
「失礼を承知で、お願い、いたします、はぁっはぁっ、どうかっ、私めのマン滓が溜まったくっさいチツマンコにっ、はぁっはぁっ、どうか芳しい『鼻糞』様を1粒賜りますよう、お願いいたしますっ」
次々に少女が駆けつけ、思い思いに口上を述べる。 それでも誰も動かないので、やむなく南原は口を挟んだ。
「どうか僕のことは気になさらず」
仮に南原が『貴方たちが貸しなさい』と命じれば、来賓といえど、即座に命令に従うだろう。 ただ、上司と部下の関係でない一般人に無闇に命令することは、何か止むを得ない理由があれば話が別だが、南原には本意でない。