第23話 『応援合戦』-1
第23話 『応援合戦』
プログラム19番、応援合戦が始まった。
午前中に南原の『椅子』を勤めた生徒会長は、応援団の團長でもある。 指揮台に登った団長は、白襷で色白な肌を卍(まんじ)に搾り、白鉢巻きが風にたなびかせている。 両手に白手袋、両足に白足袋、随所を白に染めた装い。 白無垢に通じる清々しさがある。
『はじめに、1組、2組、3組それぞれより、エールの交換を行います。 1組体育委員、指揮台正面にお願いします』
放送に従い駆けてくる、体育委員と思しき全裸の少女が2人。 南原は2人の乳輪を確認する。 1人が赤、もう1人が黄色。 つまり下級生と上級生が1人ずつだ。 指揮台の上から團長が見守る中、2人は来賓テントに向かってエール交換の姿勢をとる。 腰を落とし、股を開き、リンボーダンスに望むくらいに背中を反らして胸を張った。
応援席に控えていた1組生徒がグラウンドに入り、2、3組を向いて腰を落とす。 と、体育委員2人が一層背中を反らし、両腕を真上に伸ばした。 正面に腰を下ろしている南原から見ると、股に隠れて上半身が見えないため、膣から足と手が伸びているような恰好だった。
「まんこぉーおッ、まんこぉーおッ、に、く、みッ! そぉーれぃっ」
「「まんこっ、まんこっ、にくみッ、まんこっ、まんこっ、にくみッ」」
体育委員が背中を反らしたまま両腕を拡げ、釣られるようにクラスメイトが唱和する。 南原が幼年学校時代に体験した応援合戦なら『ファイト、ファイト、二組』だが、そこはそれ、一々学園風にアレンジがある。
「まんこぉーおッ、まんこぉーおッ、さ、ん、く、みッ! そぉーれぃっ」
「「まんこっ、まんこっ、さーんくみッ、まんこっ、まんこっ、さーんくみッ」」
1組は、続いて3組へもエールを送った。 3番目は自分たちのクラスに向けて、
「ふぅれぇーえッ、ふぅれぇーえッ、い、ち、く、みッ! よぉーおっ」
「「フレッ、フレッ、いちくみッ、フレッ、フレッ、いちくみッ」」
それまでより一層大きな声だ。 今までが小さかった訳ではないのだが、やはり自分達へ向けての応援となると、気持ちの入りも違うのだろう。 喉が張り裂けんばかりに至近距離で叫ぶため、南原はあまりに大きい声にあてられて、耳の奥までジンと痺れた。 3クラスへの応援を終えるなり、2人の体育委員は『おきあがりこぼし』宜しく跳ね起きて、深々と一礼してから元の場所へ駆け戻る。
『ありがとうございます。 続いて2組体育委員、指揮台正面にお願いします』
放送に呼ばれ、別の2名が指揮台正面にやってきた。 1名、明らかに顔色が悪い。 表情こそ辛うじて笑顔を作っているものの、視線が定まっていない。 腫れた唇がカサカサしていてるのは典型的な脱水症状だ。 乳輪をなぞった赤丸から察するに、下級生の体育委員だろう。 おそらくちゃんと水分補給出来ていないせいで、軽度の熱中症にかかってしまったと思われる。 通常であれば大事をとって、日陰に休ませて吸収のよい水気を取らせるところだ。
けれど、何事もないように応援合戦が続く。
「いっけーッ、いけ、いけ、いけ、いけ、だいにッ!」
「「いっけー、いけいけいけいけ、だいにっ」」
「おっせーッ、おせ、おせ、おせ、おせ、だいにッ!」
「「おっせー、おせおせおせおせ、だいにっ」」
先ほど同様限界まで背中を反らし、腰をおって股間をつきだす。 開ききった膣を微塵も隠さず、むしろ膣以外を折り畳んで、交互に拳で天を突く。 2人の拳に合わせて残りの2組生徒が声を張る。
「いーけいっけーッ!」
「「いーけいっけーっ」」
「いっけいっけーッ!」
「「いっけいっけーっ」」
「いッけッ!」
「「いっけっ」」
「いッけッ!」
「「いっけっ」」
「いーけいっけーッ、いちくみぃッ!」
間髪入れずにエールを挟み、指揮とクラスが交互に掛けあうテンポよいエール。 南原は初めて耳にする応援だった。
「おーせおっせーッ!」
「「おーせおっせーっ」」
「おーせおっせーッ!」
「「おーせおっせーっ」」
「おッせッ!」
「「おっせっ」」
「おッせッ!」
「「おっせっ」」
「おーせおッせー、さッんくみッ!」
ぐらり、指揮台前でクラス応援を指揮する少女のうち、顔色が悪い方がバランスを崩す。
「……ッ」
そのまま倒れるか、と思ったものの、膝をつかって踏ん張った。 すぐさま次のエールに移る。
「ファーイトファイトォッ!」
「「ふぁーいとふぁいとぉっ」」
「ファーイトファイトォッ!」
「「ふぁーいとふぁいとぉっ」」
「ファイトォッ!」
「「ふぁいとぉっ」」
「ファイトォッ!」
「「ふぁいとぉっ」」
「ファーイトファイトッ、にくみッ!」
指揮が両腕を水平に倒し、
「「せぇぇぇいッ!!」」
グラウンド中に、2組生が放った雄たけびが木霊する。 間違いなくここまでの体育祭で最も大きい。 ズゥン……座った南原の腹まで震える、気合の籠った掛け声だった。