陽炎に消えた少女-3
まさかと思いつつ合宿初日の朝を迎え、それなりの支度をして遥香が集合場所へ行くと、学校でもよく見かける川島の車がそこに停まっていたのだが、おかしなことに他の生徒の姿がちっとも見当たらない。
間もなくあらわれた川島にそのことを問うと、「じつは、誰も来てないんだよ」と彼は言った。
「それじゃあ、私一人だけってことですか?」
「すまん。結果的にそうなってしまったんだ」
重いリュックサックを背負った遥香は、ならば仕方がないと踵を返して家に帰ろうとした。どうせ誰も来ないのなら合宿に行ったって意味がない。中学生最後の貴重な夏休みなのだし、もっと有意義に過ごさないと。
しかし遥香はすぐに足を止めていた。川島に呼び止められたからだ。合宿は中止にしない、だから車に乗ってくれ、と彼は後部座席のドアを開けた。
条件反射で遥香がそちらに目を向けると、車内に誰か乗っている。
「おはよう、麻生さん」
車内にいたのは社会科の櫻井だった。しかも助手席にはテニス部顧問の円藤まで同乗している。だとしたら、川島もまた他の二人と同じ趣味の持ち主ということだろうか。
汚れを知らない少女に性欲をたぎらせる異常性愛者たち。
なんという悪夢だろう。たった一人で、三人もの大人を相手にしなければならないなんて。ほとんど輪姦に近いかたちで、朝も夜も関係なく煮えるようなセックスに時間を費やし、そして夏が終わる。
そんな現実がやって来ることを遥香は少しも疑わなかった。
「麻生、さっさと行くぞ」
その声で我に返った遥香は、川島が別荘だと言った建物をもう一度よく眺め、炎天下の高原をとぼとぼと歩く。八月の気温が陽炎をつくり、迷える少女のことを手招きしていた。