後ろの正面-2
「君たちは三年A組の学級委員だったね?」
櫻井がたずねると、そうです、と大森俊介が敵対心を露わに返事をした。
「クラスの雰囲気を盛り上げるには、君たちのような存在が必要不可欠だ。しかしねえ、学校の中でべったりするのはあんまり感心しないな」
「私たち、そんなんじゃありません」
これは遥香の台詞だ。自分たちが交際していると思われるのが気に食わなかった。
ただし、大森俊介のことを意識していないと言えば嘘になる。淡い気持ちが顔に出そうになるのを遥香は必死に隠した。
「先に音楽室に行ってるから、麻生も授業に遅れないようにしろよ?」
それだけ言うと大森俊介は少し不機嫌そうにして歩き去った。
その後ろ姿が完全に見えなくなった後、遥香はおそるおそる櫻井のほうを振り返り、緊張で体を硬直させた。
「放課後、いつものところで。いいね?」
櫻井のこの一言で、遥香はとても暗い気分になった。クラスメートの真鍋由希子を失ったばかりで、ただでさえ落ち込んでいるというのに、それが聖職者たる人間の放つ言葉なのか。
遥香はもう誰を信用すればいいのかわからなくなっていた。
およそ二か月前のあの日、遥香は理科準備室で櫻井によってレイプされた。眠気を催す薬を混ぜたスポーツドリンクを飲まされ、意識が朦朧とした状態で処女を奪われたショックは大きい。肉体的な痛みはもちろん、精神的な苦痛が癒えることはこの先もないだろう。
生徒を救う立場の人間が、自らの欲求を満たすために女子生徒を強姦したのだ。
しかも櫻井は行為の後に遥香の裸を撮影し、後日、その画像データをネタに遥香のことを数回にわたり呼び出した。
恥ずかしい思いをしたくなかったら僕の言うことを聞くんだ──そのように脅迫しては遥香に性的な奉仕をやらせたり、性教育だと称して凌辱行為を繰り返した。
きっと櫻井は遥香の画像だけでなく、もっとたくさんの児童ポルノを所持しているに違いなかった。女子高校生、女子中学生、もしかしたら小学校の女子児童にまで手を出しているかもしれない。
おそらくその中に由希子の画像も──と確信めいたものを得たところで授業開始のチャイムが鳴った。