花も恥じらう乙女たち-3
年齢を詐称していなければまだ三十歳を迎えたばかりで、どちらかというとハンサムの部類に入る顔立ちをしているから、女子生徒からの人気もそれなりにある。
だけども下半身の違和感だけはどうにもいただけない、と多感な少女たちは頬を赤らめてきゃあきゃあ騒ぎ、彼のズボンの中身を密かに想像しているのだった。
「私、これから学校に残らなきゃいけないんだよね」
汗拭きシートで胸元を拭きながら遥香は由希子に言った。
「ふうん、そうなんだ」
「うん。一緒に帰れなくてごめんね」
「まあ、そういう時もあるさ」
由希子はおどけて遥香の肩をポンと叩いた。普段ならもっと他愛もないおしゃべりが続き、少しくらい帰りが遅くなっても問題なかったが、そういうわけにもいかない事情が今日の遥香にはあるのだ。
「じゃあ、また明日ね。バイバイ」
そう言って遠ざかっていく友人の背中を見送りながら、遥香はなんとなく不安な気持ちになっていた。
その原因については心当たりがある。それは、つい先日に配信された不審者メールにほかならない。
付近の小学校に通う女子児童が下校していたところ、怪しい風貌の男に声をかけられ、車で送ってあげるとしつこく言われたらしい。
多分いたずら目的で近付いてきたのだろう、という話を今朝も担任教師の川島(かわしま)から聞いたばかりだ。
不審者の背格好についてもメールには書かれていたが、そんなものは変装でどうにでもなるだろうと誰もが口を揃えていた。
いつ、誰が、どんな犯罪に巻き込まれてもおかしくない世の中だ。
でもまさか由希子に限ってそれはないだろう──と遥香はスポーツバッグを肩に担ぐと、そのまま職員室に行って櫻井教諭の姿を探した。
西日は赤く染まりつつあり、窓際のカーテンを弱々しく焦がしている。
「あのう、櫻井先生はいますか?」
机に向かって書き物をしていた女性教諭に遥香はたずねた。
「ああ、麻生さん」
遥香の顔を見るなり女性教諭はペンを持つ手を止めた。
「櫻井先生なら図書室にいるんじゃないかしら」
「あ、そうですか」
「もしかして追試か何か?」
「いいえ、そういうのじゃないと思うんですけど」
居残りの理由については遥香も知らされていないので、そう答えるしかなかった。
失礼しました、と頭を下げて遥香は職員室を後にした。図書室は校舎の三階部分にある。