探偵、依頼受付中 【鏡】-4
鏡…鏡…鏡……。望は鏡を覗き込みながらひたすら『鏡』と頭の中で唱えていた。
鏡…鏡に写るのは左右対称の世界……。左右対称?
そこから望の脳は急速に蠢き始めた。そして容疑者の名前を確認すると……。
「あ!解りました!解りましたよ!」
「望君、五月蝿い」
命は眠いせいか機嫌が悪い。口を開きながらも目を瞑り、あくまで寝ようとしているようだ。
「大継君本当にわかったのかね?」
正二は怪訝そうに聞いてくる。
「はい、完璧です」
それに対し望は自信満々。その様子にようやく目を開けた命が口を開く。
「ほう、それでは我が助手の迷推理を聞いてみようじゃないか」
「先生、『迷』推理ときめつけないでください。…それでですね、ダイイングメッセージの『かがみ』とは!」
望は命の言葉に不平を述べながらも自分の推理を語りだした。
「鏡文字のことです!」
「へぇ〜そうか、わかったありがとう」
自分の助手が活躍するのが気に入らないのか、命はさっさと適当にきりあげようとした。望はそんな命をキッと睨み推理を続ける。
「ただ被疑者の名前を単純に鏡文字にしても意味はないです。まずそれぞれをイニシャルにします」
「というと…小林鏡歌はK.K、青木祐介はY.A、中島冴子はS.N…だな」
正二の言葉にうむと深く頷く望。
「田中さん、この中で鏡文字にしてもイニシャルが変わらないのは誰ですか?」
「それは…Y.Aの青木祐介!!なるほど、そういうことか!」
数分後、所内はまた望と命の二人になっていた。問題を持ってきた田中刑事は後で必ずお礼をするということを約束し、警察署へ急ぎ足で帰っていった。
「どうですか先生?私の名推理は?」
望は自慢げに話しかけるが、命は…
「はぁー、これから死ぬ人間がわざわざそんな面倒な暗号残すなよ……」
被害者に対して文句を言っていた。
「先生、それを言うと約三割の推理、サスペンスの話を否定することになりますが?」
ここでも冷静にツッコむ望。たしかに伏線や暗号が無くなった推理、サスペンスは面白くないだろう。
「現実でそんな作り話みたいなことが簡単に起こってたまるか!というか、現代の科学技術が発達した捜査なら、時間は掛かれど犯人を特定できるはずだ!」
そしてこれまた推理小説を否定する発言をする命。
「まあ先生、私が解決しちゃったからってそんなに愚痴らないでください。ふふふ、私の推理力は先生を超えてるかも……」
望はご機嫌なのかにんまりしている。そんな望に対して、命の言葉は…
「ふ、探偵に必要なのは事件を華麗に解決するための推理力じゃない。情報を集める腕と足、それに根気と忍耐力だ!」
「…先生、それ負け惜しみですか?今回まったくそれ関係ないですし」
「お、今の名言だな!『天才、朔夜命の名言集ノート』に書き込むとしよう」
望の静かなツッコミを無視し、黙々とノートに今の台詞を書き込む命であった。
end