第18話 『長縄飛び、綱引き、大玉転がし』-1
第18話 『長縄飛び、綱引き、大玉転がし』
最初の競技は「大縄跳び」だ。 乳輪回りに赤を塗っている集団が3つ、青を塗ったのが3つ、計6つのクラスがグラウンドに残る。
「懐かしいもんですね。 縄跳びなんて、もう随分握ってない」
「トレーニングとしては、かなり優秀なツールと聞いていますが、お嫌いですか?」
「好きでも嫌いでもないですよ。 確かに単位時間当たりの消費カロリー、運動に要するスペースの少なさ、運動開始時からピークに至るまで短時間で済む点、器具の値段、運動強度の高さに対して圧倒的な安全性……極めて高いパフォーマンスです。 効率は非常に高くはあるんですが――」
「……ですが?」
「まあ、それだけですねぇ。 特にこだわって面白そうなポイントもないし、少なくとも僕にとっては、今後も縁はなさそうだ」
「ジャンピングロープといえば色々技もあるそうです。 今後、学園の基礎体育プログラムに取り込んでいく予定ですわ」
「いいと思いますよ。 こういうスポーツが好きな生徒はいるでしょう」
「はい。 球技のような見栄えはありませんが、地道でまっとうなスポーツですから」
南原と教頭が喋っている間に、各クラスでは大縄が準備できていた。 『これのどこがまっとうなんだ』という正直な感想は、南原の口からはこぼれなかった。 この程度でげんなりするようでは学園監査は務まらないし、気力の浪費以外の何物でもない。
馬跳びの『馬』をつくった少女が2人、お尻同士を向けて縄をまたぐ。 クルリと縄端に蛸結びを拵えてから、無造作に掴んで肛門にねじ込む。 あとは腰と膝をフルに使って縄を回転させる要領だ。 縄の長さといい、回転する遠心力といい、尻に縄を収めるだけでも大変だろうに、酷さをいや増す工夫といえる。
一方で跳ぶメンバーにも枷は用意されていた。 長い凧紐(たこひも)が2本、両方の乳首に結わえられていて、もう一方の端に錘がぶら下がる。 紐は、普通に立った状態で足の甲に届く長さに調節されていた。 ということは、跳ぶメンバーが普通に跳躍したとしても、縄に錘がひっかかる。 避けるためには錘が縄を越えなければならず、跳んでいる生徒たちが不自然に乳房を弾ませているのは、ジャンプに合わせて反動をつけ、錘を高く浮かせる必要に駆られてのことだ。
「いっせーのーで……」
馬をつくった廻し手の合図に沿って、
「「いちっ! にっ! さん! しいっ!」」
グルン、グルン、グルン。
全員が声をあわせて跳躍する。 掛け声自体は、かつて南原が幼少期に体験した大縄跳びと大差ない。 跳ねる錘、弾む乳房、回るロープの中で興じる肌色の躍動――と南原は詩的に呟いてみたものの、要するに、ひっきりなしに揺れる乳房とヨタヨタ回転する大縄だ。 どんなに激しく肛門で咥えて回転させたところで、握って回すような勢いはつかない。 それでも6つのグループは、みんなして息を合わせて錘を浮かせて縄を跨ぎ、制限時間いっぱい敢闘した。
プログラム2番。 Cグループによる『大玉転がし』
「小柄な生徒が多いですねぇ」
入場門からやってくる生徒たちには、先ほどの縄跳びで呆れるほどに大きい乳房を弾ませていた長身少女や、安産型を通り越したお尻を揺すっていた豊満少女は見当たらない。
「はい。 『Cグループ』、入学初年度生によるクラス対抗競技になりますから、体格、発育的には、上級生に比べると見劣りする観はいなめません。 身体開発は、ホルモン摂取が本格化するBグループ生からになりますので、御覧になっている生徒達は、ほぼほぼ天然素材です」
「ふむ……」
『素材』という表現、南原にとって耳障りな語感である。 頭では『牝は社会の歯車』と理解しているが、現在眼前で行進する全裸の少女たちは、どう考えても南原と同じ人間だ。 確かに能力面でいえば遥かに劣るのだろうけれど、それを根拠にモノ扱いする風潮はいかがなものか、というのが本音にある。
「……」
「2列に並んで、2人ずつシリコンボールをオケツでつついて転がします。 カラーコーンを外回りして、元の場所まで戻ってくれば選手交代する、オーソドックスなルールです」
南原が口を噤んだためか、教頭が心なし饒舌になった。
「ボールは1つ50キログラム。 軽くはありません。 またボール表面に金属箔を張っていて、内部のシリコンボールに内臓したコンデンサから静電気を供給しています。 選手のオケツには導電剤が塗ってありますから、2人のお尻が同時にボールに触れてしまうと、40V程度の電圧で感電する仕組みです」
「……」
40Vというと、1秒以上通電すれば裂傷ができるレベルだ。 我慢できない痛みではないが、さりとてサラッと流せる衝撃でもない。
「選手は、交互にオケツでつついてボールを進めるも良し、2人同時に感電しながら、力を合わせてボールを転がしても構わないことになっています。 もちろん、2人協力してようやく転がる重さですから、ボールが転がりだすまで、最初は感電せずにいられません。 また、コーンを回る際や次の選手にボールを渡す際も、どうしても2人でオケツを密着しますから、最低でも3回は競技中に感電します」
「……」
複雑なボールだ。 南原は学校備品を全て把握しているため、政府から支給された品物でないことは分かる。 ということは、学園が独自に作成した競技用のボールなんだろう。 別に否定するつもりはない。 ただ、誰の発想かは気になった。 慢性的に不足している教育用具の発案は南原の担当なのだが、少なくともこのボール、南原には思いつけない発想といえる。 優秀な――優秀かどうかはさておき、少なくともオリジナリティがある――ブレーンは、南原がここ数日最も希望している処である。