第16話 『南原拓哉』-2
パァン、パァン、パァン。
南原がグラウンドに一歩足を入れた所で花火が鳴った。 音がした方向では、口、膣、尿道、鼻、肛門、あらゆる穴に打ち上げ花火を挿入した少女が数名、砲口を真上に向けて佇んでいる。 何本かからは白い煙が漂っていて、先ほどの花火が少女から打ち上げられた名残を留めていた。
「予定には、花火、入ってましたっけ? 昨年のプログラムにはなかったように記憶してるんですが」
「仰るとおりです。 危険でコストも大きいため、今年も見合わせようという話もありました。 ですが来賓に本省の方がいらっしゃる以上、出来るだけのことはしようと思いまして、5つの『花火発射台』を用意した次第です」
「……ということはあのコたち、僕のためにあんな恰好させられてるんですかね」
「そういうわけではありません。 来賓を、特に殿方をおもてなしできる機会は、我々女性にとっても牝にとっても至福の瞬間です。 みな、自分から志願して、腸、口腔、膣襞その他、内臓を焼かれる器具に身を呈しておりますわ」
「志願ねぇ……ま、そういうことにしときましょうか」
僅かに口許を歪めた南原の正面で、別な『花火発射台』が火を噴いた。 昼間ゆえに煙中心の大玉が空高く弾け、さりゆきつつある夏の気配を呼び戻す。
ざっ、ざっ、ざっ……パァン、パァン、パァン……。
南原が一定距離進むたび、無味乾燥な音色がグラウンドに木霊する。
ざっ、ざっ、ざっ……パァン、パァン、パァン……。
ざっ、ざっ、ざっ……パァン、パァン、パァン、パァン……。
「こちらにどうぞ」
南原が教頭に案内された先は、校庭正面に設えられたテントだった。 中にはパイプ椅子が並んでいた。 ただしテント中央部分だけ椅子がなく、不自然に広いスペースがとってある。 太陽が昇ろうが沈もうが、ちゃんと日陰に収まる特等地だ。 周囲の椅子には『U字町会長様』『U字幼年学校長様』『U字商店街会頭様』『U字保育園長様』といった札が置いてある。 南原の席、即ち『文武科学部中等教育庁準次長』の札がついた席は見当たらない。 名札がない席を1つ借りて座ろうとした矢先、これまで一歩下がって傍らに寄り添い歩いていた少女が、はじめて南原の前に出た。 と思うと地面に両手をついて膝をまげ、四股(しこ)を踏んで立ち合いに望む力士のように腰を落とす。 南原からは、身長の割に大きめな尻と、谷間に挟んだ女の持ち物が丸見えだ。 少女の持ち物は、ここまで匂いが漂ってきそうなくらいに潤んでいた。
「こちらの椅子におかけ頂くとして、高さ、固さ、姿勢その他、なんでもおっしゃってください。 至らない点があればいかようになさっていただいて結構です」
少女が即席で身体を呈した『人間椅子』。 南原も、当然少女がそうくるだろうと分かっている。 なので少女が『椅子』になるより先に、自分用に椅子を見繕おうと思ったわけだが、少女の行動は予想よりも俊敏だった。 地面に這いつくばった少女が、チラリ、一瞬南原を振り返る。 表情が乏しい瞳ではあったが、そこには何か、言葉にできない一種懸命なものが潜んでいるように南原には思われた。