第14話 『前哨戦』-1
第14話 『前哨戦』
HR前に、職員は一度集まって打ち合わせをする。 内容は、諸連絡に諸注意、提出物に期限決め、時間割変更と雑多諸々だ。 今朝の打ち合わせには2点あった。
『体育祭備品予備生徒を、各クラスより1名ずつ供出。 得点板予備、1組から。 来賓用椅子予備、2組から。 放送ケーブル予備、3組から』
『予備生徒選出のため、臨時学年集会を開く。 時間割変更40✕5コマ、0時限をつくり、集会にあてる。 HR後すぐに体育館集合』
例年、予備備品の供出なんて聞いたことが無い。 何でも、風紀委員から『得点板予備』の申し出があって、1クラスから予備生徒を供出すればクラス間に不平等が生じる。 ゆえに急遽必要性が高そうな備品につき、1名ずつ予備品目に生徒を中(あ)てることになったそうだ。
打ち合わせを終えて真っ先に浮かんだ感情は、不審。 得点板が必要なら、1・2・3組用に1人ずつ選出すればいいのに、なぜ1組が得点板で、2組が椅子、3組がケーブルなんだろう? そもそも放送設備に断線が起きるなんて有り得ないし、1クラスが3桁得点する可能性なんて更に有り得ない。 その点、2組の『来賓用椅子』であれば、来賓が増えればいくらでも出番があるわけで。 形式的に選考する1、3組と比べて、2組は徴用される蓋然性が高いと思う。 なんで2組だけ……と思うのは禁句なのだが、とにかく、学年主任でもある1組担任からの指示なので、従うしかないわけだけど……どうにも違和感が拭えなかった。
教室に向かう道すがら、一緒に歩いていた3組担任が教えてくれた。 なんと、今年は来賓に官庁から殿方が派遣されるらしい。 殿方に接触するまたとない機会であり、ゆえに例年より手厚い対応が必要になる。
『貴重な機会を2組に振って貰えるなんて、羨ましいなぁ』
そう語る3組担任の言葉は、私にはどうにも白々しく聴こえた。 徴用された生徒は、当然自分が出場するハズだった競技に出ることはできない。 クラス対抗にしろ個別競技にしろ、明らかな戦力ダウンだ。 3組担任は、
『2組は退学者がいないから、在籍者が一番多いでしょう。 こういう機会は譲ってあげるから、負担は公平にしなくちゃねぇ』
と言うが、現状私のクラスが35人揃っているのは、たまたま学級経営が上手くいった結果に過ぎない。 誰よりも補習を出した自負があり、一つ目算が狂えば在籍数が最も少ないクラスになっていた。 それを、生徒が頑張って乗り越えて今があるわけで、たまたま人数が多いように言われるのは心外だ。 けど、私は内心を表明するほど愚かじゃない。 そもそも主任の決定は絶対だ。
HR。 時間割変更と臨時集会の開催を告げ、生徒を体育館に急がせる。
私なりに最短で追いやったつもりだったが、体育館に着いた時点で1・3組とも全員が揃っていた。 どうやってこんな早く集まれたんだろう? HR開始以前に集会を知っていないと、こうも素早くは動けないはずだ。 ということは、1・3組は事前に知らされていたんだろうか。 決して少なくない頻度で、学年全体に知らされるべき情報が2組だけ遅れて知らされることが――時には最後まで知らされないことすら――ある。 今回もその類だろうか。
「お待たせしました」
集会隊形を指揮している1組担任に会釈する。
「いえ、2組さんが遅いのはいつもの事ですから。 お気になさらず」
「……申し訳ありません」
予鈴に間に合っているので謝罪するいわれはないが、皮肉っぽく後ろ指を指されては頭を下げないわけにもいかない。 3クラス揃ったところで、改めて生徒に1組担任が集会の意図を説明した。
「学年でコンテストを開き、貴方たちから優秀な3名を選びます。 3名には、来る行事で備品になるという、名誉な機会があるかもしれませんね。 素晴らしいことです。 ついては、1組は得点板候補になるため、体文字コンテスト。 2組は人間椅子コンテスト。 3組は放送設備補助として、ケーブルコンテストを実施します」
シーン。 少しでも動けば叱責されることが身に沁みており、1組担任が前に出た時は全体に緊張感がある。