日常Breaker-3
「じ、じゃあ、ヴラド・ツェペシなんてどうですか?」
「串刺し公?」
「ポル・ポトはどうでしょう?」
「確か、虐殺の父ですよね?」
「沙耶は、なんかグロいね。趣味が」
「…そうですか?」
う〜ん、と皆で首を傾げる。考えてあだ名をつけるというものは、意外と難しいのである。
「よし、顔立ちからしてハーフっぽいし、ガバメント大柴でどう?」
「かっこいいですね!」
「自分、ハーフっぽいですか?結構、醤油顔だと思ってたんですけど」
命名、ガバメント大柴。リングネームみたいだが、皆さん気に入ったようなので、これに決定した。ちなみに、ガバメントとは政府という意味である。
そうこうしているうちに、幾島家に到着。スーパーの経営者らしく、そこそこ広い家だ。
泰久がドアノブを回すと、カチャリと扉が開いた。
「…」
緊張の、妹との対面だ。
「た、ただいま」
泰久の声が、フローリングの廊下に響く。
「おかえり〜、お兄ちゃん」
案の定、聞き覚えのない声で、挨拶が返ってくる。それと同時に、パタパタとスリッパの音が聞こえ、ついに妹が顔を見せた。
「あ、沙耶さんも一緒だったの?後ろの人は?」
サラサラの長い黒髪は背の中程まであり、体型は、かなり細い華奢な感じだ。アーモンド型の瞳が印象的な、かなり大人びた感じである。年齢で見れば美少女だろうが、外見は、すでに美女と言えるだろう。また、胸の大きさも、悔しいことに沙耶は完敗だ。…基本的に沙耶は負けっぱなしだが。
「え、えっと…サミュエル滝野さんだよ」
美少女と対面の緊張のあまり、ガバメント大柴の名前を派手に間違える。
「あ、そうなんだ。初めましてサミュエルさん。幾島華奈です。兄が、お世話になっています。」
ペコリと頭を下げると、ほんわかと、シャンプーの匂いが香る。
「あ、い、いーえ、こちらこそ。自分は、サミュエル滝野です。こちらこそ、よろしく」
ガバメント大柴の名前は、既に改名されたらしい。
この後、泰久は華奈に、サミュエルと同居する旨を伝えた。ついに、この謎の男との波乱万丈な生活が始まるのである。