第2章 新鋭女刑事…だった頃-1
「無駄な抵抗は止めなさい!」
何気ない普通の水曜日の正午、郊外にあるスーパーに朱音の声が響き渡った。
先週の金曜日、千城県中野市内で連続強盗強姦殺人事件が起きた。2人組の犯人の手口は早朝に仕事を終え帰宅途中のキャバクラ嬢を狙い車に押し込み、既に発見したアジトである廃倉庫に連れ込み金品を奪った後強姦、首を絞め殺害し草の生え茂った河原や山の中に遺体を捨てると言う残忍な手口だ。この一ヶ月で既に10人の女性が被害に遭っていた。しかしそれは確認出来た件数であり、素性を明かさず働く女性も多いキャバクラ嬢。聞き込みで分かった事だが、急に仕事に来なくなり姿を消す事は日常茶飯事だと言う事だ。すなわちもし犯人の手にかかり殺害されたしても店側はキャストの携帯電話以外の連絡先を把握していない為、携帯にかけても繋がらない時はいつもの事だと諦め、特に気にもせずに新しいキャストを迎え入れるとの事だった。
「あーでも、最近多いなぁ、急に来なくなる子。特にこの一ヶ月。ウチだけじゃなくて他んトコも多いらしくてさー、たまに引き抜きとかされて困ってんスよ〜。」
金髪の店員が首をかきながらだるそうにそう証言した。証言を取り終わり店を出ようとした時に、何かを思い出したかのように店員が朱音を呼び止めた。
「あー、そうそう、今東京でさぁ、早朝の仕事あがりのキャバ嬢を狙うキャバ嬢狩りってのが流行ってんでしょ?だいたいキャバ嬢とか水商売系は日払いが多いから金持ってんの知ってる奴らがそれを目当てに拐って金だけじゃなくてレイプまでしちゃうって。ほら、キャバって特に規制なくて明け方まで営業出来るし、彼女らが帰る3時4時とかってさー、人居ないし目撃される可能性少ないじゃん?だから犯行しやすいんだろーねー。ま、こんな田舎じゃそこまで金も稼げないしそんなおっかねー事しようとするような気合い入った奴いるとは思えねーけどね。」
そう一方的に話した店員に礼を言って背中を向けた朱音に店員は半ば冷やかすように言った。
「オネーサン、ウチで働かない?オネーサンなら稼げるよ♪」
足を止めて溜息をつく朱音。呆れた顔で振り向き店員に言った。
「私、男に媚びるの、嫌いなんで。」
店員は何故か嬉しそうな顔をした。
「だよねー♪バイバイオネーサン!」
朱音は再び背を向け後ろ向きに手だけを振って立ち去った。
「キャバ嬢狩りか…。」
能天気な店員に初めは期待もしていなかったが、重要な話を聞けた事は大きな収穫であった。朱音は別な店に聞き込みに行っていた中堅どころの刑事、島田真也と合流し覆面パトカーに乗り込んだ。