家政婦との小旅行-32
陽光が跳ね返るリビングに背丈の高い女性が並んでいた。天窓の光に照らされた二人は、スレンダーな輪郭で美しく輝いていた。
「エレナなのか?」
ブロンドを靡かせる女性に声を掛けて振り向かせていた。エレナだ。エレナの瞳は何故か冷淡に据え置かれていた。
「何処行ってたの?」
エレナと同じように高いヒールに膝を伸ばした女性も振り返り、満面の笑顔でバレないように小さく手を振って戯けていた。美しい隣の女性を認めた僕は、一瞬の隙を突かれて絶句してしまっていた。
「遅い。何処行ってたの!」
「寝てたよ。それより、誰だ?」
精一杯の受け応えだった。あからさまに挑発した笑顔で小さく手を振る侑香を一瞥して咄嗟にだせた言葉だった。
「ユーカ。エレナの一つ歳下よ」
エレナは完全に怒りの嫉妬を宿していた。侑香はエレナよりひとつ若く、エレナに迫る長い脚で美しく並んでいた。エレナに匹敵する小さな小顔は、エレナとは正反対の童顔で可愛らしく輝いていた。
侑香の美しさを理解したエレナの瞳は、あきらかに嫉妬が滾ぎっていた。
「何してんだ?」
逆に聞き返して誤魔化していた。エレナは不満そうは顔で、ユーカが背を比べたいって言うから測ってたのよ。と言い放っていた。
ダイヤモンドが霞む豪華な女性の光景だった。二人共180cmを越える美脚でバスローブでたじろぐ僕を見下ろしていた。
「ユーカか。でかいな」
「わたしの方が高いね」
エレナは嫉妬に狂った瞳で近付いて来た。長い脚が陽光に照らされ太腿の産毛が薄いゴールドで輝いていた。エレナの背中を見つめる侑香は満面の笑顔で大きく両手を振っていた。このやろう。心は焦りに襲われていた。
目の前で立ち止まったエレナは、顎の位置をおでこの高さでとめて強い瞳で見下ろしていた。目線はエレナの迫力あるデカい胸に遮られて侑香の行動が見えなくなってしまっていた。ヤバい。焦る心はデカい胸と向き合って言葉を失ってしまっていた。
「SEXする?OKよ。問題ない」
明らかに侑香に聞かせる声で追い討ちをかけられてしまっていた。咄嗟に何も言葉が出なかった。マズイ。一瞬の静寂が致命的な状況を二人に悟られる瞬間だった。
「ユーカ、そこまでよ。こっちに来なさい」
「息を切らせたアスカが声を上げて部屋になだれ込んで来た」
「アスカ」
アスカは、瞳を細めて許しを乞うように侑香に声をかけ続けていた。侑香はアスカの登場に肩をすぼめてドアノブを見つめていた。
「ユーカ、帰ってよ」
エレナは振り返って強いスペイン語で言い放っていた。侑香は全ての動作を止めて其処から動く気配を消していた。硝子人形のような美しい20歳の素顔は、可愛らしいショートカットの小顔を凍らせて大きな瞳で僕を力強く見つめていた。
「ユーカ、そこまで。帰るのよ」
アスカは焦っていた。プロがたじろぐ光景は普段と違う侑香を認めた焦りだった。強い瞳で動きを止めた侑香は、急遽のフェティズムに縋った官能世界に空気を変えようとしていた。僕もアスカもそれを察して言葉を失ってしまっていた。
四人が集まったリビングは、侑香が造った見事な静寂に支配され全ての音を消していた。
「ユーカ?」
エレナは音の消えたリビングで怯える声で呟いていた。喉奥まで出掛かった言葉を飲み込んで見守っていた。侑香は等身大の人形の美しさで全ての動作を止めていた。20歳のプロが誘う本物の倒錯行為だった。誰もが侑香に支配された空間に身動き取れずに見惚れてしまっていた。
「嘘でしょ」
ブロンドの長い髪先が緊張した空気に触れて跳ね返っていた。微動だに動かない侑香は見事な完成度で全ての空気を支配していた。20歳の輝きで美しく見下ろす侑香は、全ての綺麗事を否定した強い光で空虚に瞳を反射させていた。
「ボス?」
小さな声だった。エレナは震える声で助けを求めていた。何も言葉を返せずに、息を吸うだけで精一杯になっていた。官能世界を創り上げた侑香は、張り詰めた空間にエレナを取り込んで全ての事実を理解させていた。
「エレナさん、あなたもなのね」
侑香は硝子細工の瞳で残酷な事実を告げていた。エレナの頬に細い涙が流れ落ちていた。美しい涙だった。愛おしいエレナの首筋に温かい涙が溢れ落ちていた。誰もが動く事を許されない緊張感は、音の無い世界に支配されていた。
侑香、もういいだろ。心の声は喉を通らずに、空虚を支配する侑香の瞳に吸い込まれてしまっていた。