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子供にはお菓子を、大人にはキスを
【幼馴染 恋愛小説】

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子供にはお菓子を、大人にはキスを-1

 陽が沈み、色とりどりの照明がきらきらと輝き始める時間。
 地下街の狭い通路には間抜けな口を開けて笑うオレンジ色の巨大なオバケカボチャ、作り物の木にぶらさがるデフォルメされた黒コウモリ、魔女に扮してお菓子を配り歩く店員たち。
 ああもう、イライラする。
 あっちもこっちもみんな『ハッピーハロウイン』って。
 オレンジと黒の飾りつけなんてすごく悪趣味。
 いい年の大人まで変な仮装しちゃって恥ずかしくないの?
 なにがハッピーなのよ、ほんと馬鹿みたい。
 通り過ぎていく人々の大半が奇妙な仮装をして楽しそうに笑い合っている中、水月クルミはブスッと黙り込んだままスマホの画面を弄っていた。

 画面の上を、大量の写真が流れていく。
テーマパークのアトラクションを背景に可愛らしくはしゃぐ甥や姪たち、それにクルミの姉3人と幸せそうに笑う両親の顔。
どれも今日撮ったものばかり。
 カメラマンに徹していたせいで、クルミ自身はほとんど写っていないが、そんなことはどうだってよかった。
 下は1歳から上は小学6年生まで大勢の子供たちに囲まれてわいわい騒ぐのは楽しかったし、早くに嫁いだ姉たちや実家の両親と久しぶりに会えたのも嬉しかった。
 でも。
 遊び疲れた子供たちと別れた、ひとりきりの帰り道。
 少し休憩してから帰ろうと立ち寄ったカフェのカウンターで苦い珈琲を啜りながら、クルミはふと心が沈んでいる自分に気が付いた。
 べつにハロウインが嫌いなわけじゃない。
 イライラしているのには、もっと別の理由がある。


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