子供にはお菓子を、大人にはキスを-5
「ふうん、結婚か。たしかにクルミんちの姉ちゃんたちって、三人ともめちゃくちゃ結婚するの早かったもんなあ」
俺んちの兄ちゃんなんか35だけどいまだに独身だ、と晴樹が笑う。
「笑いごとじゃないんだからね。嫌なの、そういう結婚とか子供とか急かされてる感じが」
「あー、まあな。たしかに俺も急かされるのは嫌だな」
彼の手の中のカップから、甘い香りが漂ってくる。
すごく美味しそう。
「それ、何? わ、クリームいっぱいのってる」
「ホットチョコレートのホイップ増量」
「いいなあ、ちょっとちょうだい」
「いいよ、やるよ。俺、そっちの珈琲でいいから」
でも、珈琲はとっくに冷めてしまって不味くなっている。
迷っているうちに、晴樹はさっとカップを交換してしまった。
遠慮してもしかたがないので、クルミはありがたく温かいカップを口に運んだ。
濃厚なチョコレートの味と生クリームの優しい甘さが口いっぱいに広がり、少しだけ幸せな気持ちになってくる。
「これ、すっごく美味しい。ごめんね、催促したみたいで」
「いや、催促しただろ。それより話の続きは?」
「ああ、うん。だから、無理に考えようとするとイライラしちゃうってこと。そういうの、どうしたらいいかわかんないし」
「そういうのって?」
「結婚とか、恋愛とか。自分がお姉ちゃんたちみたいになるのって、あんまりイメージ湧かないんだもん」
「ふうん、結婚したくないんだ?」
「したくないっていうんじゃなくって、いまは自分がそういうレベルじゃないみたいな」
「好きな男がいないってこと?」
「いない……ううん、わかんない」
その『好き』が難しい。
知り合いや職場の人の中にも、感じの良い男性は何人かいる。
でも恋人候補なのかどうかはよくわからない。
どのくらい好きなら恋人になれるのか、結婚できるのか。
例えば学生のときなら、各学期のテストで50点以下は欠点で不合格、それ以上は合格というような明確な基準があった。
恋愛にもそんなものがあるなら教えて欲しい。