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子供にはお菓子を、大人にはキスを
【幼馴染 恋愛小説】

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子供にはお菓子を、大人にはキスを-6

 ぶつぶつと独り言のように呟くクルミの横顔を、晴樹はにこにこしながら眺めている。
 その余裕のある笑顔に、また少し腹が立ってくる。
「なによ、笑いごとじゃないって言ってるのに」
「笑ってないって」
「笑ってる! 晴樹は考えたことないの? そういう恋愛とか結婚とか」
「俺? あるよ」
 晴樹があまりにもあっさりと言ったものだから、クルミは思わずカップを落としそうになった。
 まさか、そんな。
 クルミの知っている男性の中でも、一番恋愛に縁がなさそうだと思っていたのに。
「え、なんで? そんなの知らない」
「それはな、おまえがいつでも俺の話を聞いてないからだ」
「そんなことないよ、恋愛の話なんか聞いたら覚えてるもん。なんなの、まさか実はもう付き合ってたりする?」
「うーん、微妙なところだな。あんまりこっちから押すと逃げられそうだし」
「てことは……晴樹は好きなのね、その子のこと」
「もちろん」
 うわあ、はっきり言い切った。
 よくわからないけどすごいショック。
 でもそんなの顔に出すのはカッコ悪い。
 クルミはざわめく心を押し隠しつつ、手の中でカップを弄びながら晴樹の顔を盗み見た。
「気持ちは伝えてないの? 好き、とか、付き合いたいとか」
「そういう言い方はしてないけど。わかるだろ、普通」
 ちょっと照れてる。
 それだけその子のことが好きってこと?
 友達なら応援しなきゃいけないところだと思う。
 だけど、だけど。
「わかる? どうやったらわかるの?」
「もういいよ、俺の話は。今日のメインはおまえの話だろ」
「そりゃそうだけど、気になるじゃん」
「もういいって。クルミはどういうのが恋愛だと思うわけ?」
「どういうって……うう、言わない。言ったら笑うもん」
「いいだろ、ナイショにするから。ほら、言ってみろ」
「絶対笑わない?」
「笑わない」
 言ったそばから、もう晴樹の口元は笑いかけている。
 でも彼の話を聞いたのに自分だけ話さないのもズルい気がする。
クルミはしばらく黙り込んだ後でしぶしぶ口を開き、ずっと秘密にしてきた理想の恋について語った。
「あのね、わたしの中での恋愛とか恋人ってやっぱり王子様なの」
「王子様ぁ?」
「そう、あのキラキラした服着て、お城に住んでる王子様。それでそのときが来たら白馬に乗って颯爽とわたしを奪いに来てくれるの」
「ちょっと待て。その設定だと、おまえもキラキラのドレス着たお姫様じゃないとおかしくないか」
「そう、でもいいの。王子様は運命の人だから、その人とキスした瞬間にわたしの服もキラキラのドレスに変わっちゃうの。カボチャが豪華な馬車に変わるみたいに」
「なんつーか、いろんな話が混じってるな」
「べ、べつに本気でお城に住みたいわけじゃないのよ。キラキラ服とかも現実的じゃないし。こう、それが比喩的な意味での理想の恋なの」
「わかってる」
 約束通り、晴樹は笑わずに真面目に聞いてくれている。
 それが逆に恥ずかしくなっきて、クルミはぷいっと顔を背けた。


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