白と黒-1
「なんということだ…。コウガを選んだというのか、エリス。」
「そうよ。そして思い出したわ、自分が何者なのかを。私は妖魔界で生まれたけど妖魔の女じゃない。人間界で育ったけど人間じゃない。私は…天界の翼エリス。」
「そうさ、そうだよエリス。翼魔界の王になるためには天界の翼と交わらなければならない。もう少しでコウガを殺し、オマエと…。そうすれば僕が王になれたのに。なぜだ!なぜ急に記憶が。」
「記憶なんか関係ない!コウガを守りたい…私はそう願っただけよ。」
「僕ではダメなのか?」
「ダメ。」
「実も蓋もないな。」
「無理やりあんなことさせるような人、選ぶわけがない。」
「…。」
「翼を収めろ、ユウジン。分かってるだろ、完全体たる双翼に単翼は勝てない。殺しはしない、何処へなりと去れ。」
「…。」
紅蓮と純白。左右の翼をはためかせ、私たちはユウジンに迫った。
「ふは、はは、ふはははははは!」
「狂ったか。」
「仕方ない。オマエで我慢してやるよ。来い、ラクス。」
「ふん、我慢されてやるよ、ユウジン。」
いつの間にか近くに来ていたラクスが漆黒の翼を広げ、ユウジンにしがみついた。
「よせ、おまえたちは二人とも…」
「ああ、そうとも。男だよ。何が悪い。なあ、ユウジン。」
「だな、ラクス。」
ブワゥウゥン。
ユウジンとラクスは光に包まれた。そしてユウジンはラクスを後ろから抱え、中に…。
「やめろ!禁を犯せばどうなるか分からないんだぞ?ユウジン。」
「もうどうでもいいさ。付き合ってくれるだろ?ラクス。」
「しょうがないなあ。」
「バカな…。」
バサァ。
紺碧の翼と漆黒の翼を背負った彼らの唇の端は、Vの字に見えるほどに吊り上がっている。
これって、
「悪魔…。」
「そうだ。王位継承争いに敗れたものは悪魔となる。」
「僕たちは悪魔、か。」
ユウジンとラクスがアメリカ人の様に両手を挙げるポーズをした。
「エリス。」
「何?コウガ。」
「今日は何の日だ。」
「え?私の誕生日…」
「いや、そっちじゃなくて。」
「ハロウィン?」
「そう。元々は農民の収穫祭の儀式に過ぎなかった。でもそれを、仮装してふざけまわるお祭り騒ぎにすり替えた。翼を現した翼魔と天界の翼が目立たないようにカモフラージュするためだ。それがハロウィンの真実。だが、ハロウィンにはもう一つの隠された意味がある。」
コウガと私は攻撃の態勢をとった。ユウジンとラクスがそれに応えるように身構えた。
「人知れず悪魔を払う。それがオレたち翼魔のハロウィン。去れ、悪魔。ユウジン!」
「おいおい、コウガ。何のために僕たちが双翼になったと思ってるんだい?」
「翼を収める気は無いということか。」
紅蓮と純白。紺碧と漆黒。
どちらも動かない。動かない。動かない。