♠愛しのあの娘♠-9
「暗がりの中で、心を持たない人形が光を見つけ出し、人間に変わるーーそれをイメージしたんだって」
「ふーん」
「天童さんが、この少しの間であたしの雰囲気がすごく変わったって言ってた。当初はそれこそ人形っぽく、柔らかい雰囲気のヘアスタイルや衣装にするつもりだったみたいなんだけど……途中でガラッと方針を変更することになって、ああなったんだよ」
「えっ、そうなの!?」
てっきり、あのモードなスタイルは最初から打ち合わせで決まっていたと思っていたのだが、急遽路線変更することになっていたとは。
それでいて、あの完璧なショータイム。恐るべし、天童兄弟。
「天童さん、以前のあたしを人形みたいって言ってた。いつもニコニコして愛想がいいんだけど、心がないって。家族の問題があったこと、彼は知らないはずなんだけど、どこかでそういうのが滲み出てたのかもしれない」
「松本……」
「でも、今は違うんだって。大切なものが出来た、そんな風に見えたんだって。あたし、天童さんに『アンタ、恋してるでしょ』って言われちゃった。やっぱ、バレバレなのかなあ」
「さ、さあ……」
ニヤニヤしながら俺を見てくる彼女が照れ臭くて、まともに顔なんて見れやしない。
「急に、それを察知したから、あのヘアスタイル、ドレスにしたんだよ。人形で心を持たなかったあたしが、恋をして心を持った、それを暗闇の中の光で表したって」
「……へえ」
立ち止まる松本に手を引っ張られて、俺の足も止まる。
目と目が合えば、やけに真面目な顔で俺を見る松本がいた。
ゴクッと喉が上下する。
この雰囲気は……。
繋いだ手をそっと放し、彼女の華奢な肩を掴む。
もう何も言葉なんていらなかった。
そっと顔を傾け、俺は松本の唇に自分のそれを重ねようとしてーー。
「天童さん、あたしに“天野くんとのセックスはまだなんでしょ”って言ってた」
「は?」
キス寸前で動きが止まり、顔を見ると松本はニッと意味深な笑みで俺を見た。