♠愛しのあの娘♠-2
ナチュラ・ヘアコンテスト20XX。
シャンプーとか、スタイリング剤のサロン向けメーカー主催のこのコンテスト。
俺はよくわからないけど、美容師の間ではこのコンテストで優勝することが、最高峰なんだとか。
確かに、ここは普通にライブとかやるようなデカい会場だ。
チラリと視線をステージに向けると、たくさんの席があって、そこで技術者とモデルが組みを作って、一斉にカットしているところだった。
「……でも里穂ちゃん、大丈夫なの?」
ニコニコしていた古川さんは、いつの間にか心配そうな顔になって、チラリとステージの方を見やった。
ノリのいい曲の中、観客席のあちこちでモデル達が少しずつ変身していく様に歓声が上がる。
彼女の言う、“大丈夫”は髪をバッサリ切ることではない事を理解していた俺は、
「さあ……」
と、曖昧に首を傾げた。
「さあ……って、里穂ちゃんのお家、このままじゃご両親が離婚しちゃうんじゃないの?」
「んー、どうやらそれはほぼ決まりみたいですけどね」
「そんな! どうにかならないの!?」
泣きそうな顔して俺に詰め寄る古川さんを、駿河さんが肩を掴んで諌めた。
「小夜、これは松本の問題なんだ。天野に言っても仕方ねえだろ」
「だって……」
シュンと俯く古川さんの気持ちもわからなくはない。
松本の父親の不倫現場に乗り込んだあの日から、もう一か月が過ぎた。
結論から行くと、松本の両親はほぼ離婚の方向で話が決まりつつあるらしい。
それを松本から聞かされた時に、俺は自分のしてしまったことが取り返しがつかないことだと知り、罪悪感でいっぱいになった。
だが、案外松本はスッキリとしていた顔で、俺のせいではないと言っていたのだ。