霧と砂嵐-1
ちづるはすぐに深い眠りに落ちた。
夢を見た。
***
夢の中。
ちづるは広い霧の中、
ぼんやりと突っ立っている。
辺りは薄暗く、霧の先は見えない。
嫌な場所だ、と直感する。
ここにいると嫌な気分が
増してしまいそうだと思い、
パジャマ姿のちづるは
とぼとぼと歩き出す。
しばらく歩くと、
目の前に球体の砂嵐が現れた。
背丈ほどの
グレーの球体の砂嵐を
見ていると、
心が落ち着かなくなる。
きっとこの中は
薄暗い今いる場所よりも
もっと嫌な場所だろう、と予感する。
「、 、 、、 、。」
砂嵐を避けて前に進みたい気持ちと
中に入らなければ
いけないのではないか、という
妙な気持ちとの葛藤が始まる。
しばらく砂嵐を見つめていたが、
意を決して砂嵐の中に入った。
砂嵐の中は、静かだった。
静かすぎて耳に違和感を感じる。
テレビの砂嵐のように
空気中にノイズが入っているようで
前がよく見えない。
そしてなにより、落ち着かない。
ここにいるだけで
手に冷や汗をかいてきて
手のひらはぐっしょり濡れてきた。
パジャマの裾で、
手のひらを拭きながら歩く。
「、 、 、 っ、
早く 」
早く 行かなきゃ
歩くスピードをあげる。
ほんの一瞬だけ、何故
早く行かなきゃいけないのか
考えようとしたが、
その思考はすぐに消え去る。
身体のが素直に動いた。
いつの間にか走っていた。
走りながら
心の中の悲しみが溢れ出す。
この悲しみは
どこからきたのだろうか。
きっと、
自分が走った先に
この悲しみの理由が
あるような気がする。
「 、 〜っ はぁ、 、
〜っ 、 、
ぁ、 。 」
いた
見つけた
最初に見つけたのは、
真っ白なマグカップだった。
中身は空っぽで、
コバエが1匹その周りを
飛んでいる。
ゆっくりとマグカップに
近づき、腰をおろして
ちづるはしゃがむ。
マグカップの先に、
体育座りをしている
綺麗な顔の男の子がいる。
10歳ぐらいの男の子は
上下黒い服を着ていて
背中を丸め、ぼんやりとして
マグカップを見つめている。
ちづるが男の子に言う。
「 、、だい じょうぶ?」
「、 、 、、、 、。」
「、、あの、
ここで、何してるの? 」
「、 、 、、、。 」
「 〜っ 、 、」
私、 この子に
何を 言えば
『ずっとここにいたの?』
『寂しくなかった?』
『いつから独りだったの?』
、 、、、 っ 、
「 、 、 ぁ 。 」
気がつくと、
マグカップの周りを飛んでいた
コバエが1匹から2匹に
なっている。
ちづるは手でその虫をはらう。
マグカップを持ちながら言う。
「 ねぇ、、
一緒に 行こう? 」
「、 、、、 。 」
男の子はちづるを見ず、
静かに首を横にふった。
その表情は無気力そのもので
見ているだけで悲しみが
込み上げてくる。
もう一度、言う。
「 行こう? ね? 」
「、 、 、、、いい。」
「 どうして?」
「 、 、、」
「、 、 、、ねぇ、 、
どうして? 」
「、 、 、 、 、 」
「 喉、乾いてない?
これ洗ったら何か、、
飲むものいれるから、、。
行こう? 」
「 、 、 、、、。
いいよ、 もう 」
「 〜? 、 、、っ 」
「、 、 、 、、 、。」
「 〜っ ! っ
なんで
っ 〜っ !?
〜っ 」
声が 出ない !
言わなきゃ
〜っ 、 、 早く
でも 何を?
何から
〜っ タクミくん
***
「 っ はっ 〜っ ?
っ、 はーーー、、、?
〜っ ぁ 。 」
夢、 、 ?
ぇ?
でも あれ?
空気が 〜っ !?
ハッと目を覚ましたちづるは
部屋の天井を見ている。
暗い部屋の空気の中に、
砂嵐がほんの少し混ざっていて
空気がチリチリと動いて
豆電球が、よく見えない。
寝ぼけているのか、
本当に砂嵐がそこにあるのか
分からず、何度も瞬きをする。
徐々に、砂嵐が消えてゆく。