原爆の夜-4
4.
少し前の昼休みに、教室から校庭を見下していたヒデオに冴子が近づいてきた。
いつも横顔を盗み見ているので、何か言われるのかと心臓が早まった。
「ヒデオ、おらうちとおまんは親戚じゃとおかんが言うとったよ」
「そうなん」
同級生に何人も親戚がいるので、別に不思議ではなかったが、思いを寄せる冴子が親戚だといって近づいてきたことが嬉しかった。
「今度、東京の話聞かせてくれんかね?」
「うん、いいよ」
「鎮守様で兵隊の訓練しとるじゃろ、終わった頃に行くすけ、待っててくれんかね?」
「分かった」
その日、訓練を終えて、本堂に登る木造の階段に腰を下していると、冴子がやってきた。
「強(こわ)かったけ?」
「ううん、大したことないよ」
「これ上げる」
冴子が、手にした干し柿を呉れた。
「東京はどうなん?」
「毎日空襲でなぁ、朝はPコロって艦載機の空襲で、夜はB29 が焼夷弾を落としよる」
「ヒデオ、無理して田舎言葉使わんでええよ、おら、東京弁が聞きたいんや」
「うん、ありがと」
「ヒデオの家は焼けたのか?」
「いいや、周りの町は殆ど焼けて、うちの周りは焼け残っているけど、いつ焼けるか分かんないよ。東京では皆の家に防空壕が掘ってあって、空襲になるとそこに隠れるんだ。空襲が終わって外に出ると、空一面が真っ赤で、真ん中だけが黒く見える。その黒いところが僕の住んでいる町なんだ」
空襲の経験の無い冴子には、想像が付かないらしい。
しばらく話し込んで、冴子は帰っていった。
冴子とのささやか逢引は、その後も続いた。
「戦争が始まる前の年は、昭和15年、紀元2600年のお祭りがあったんだよ、知っているかい?」
「学校で式があったんよ」
「東京ではで花電車が走ったんだ。貨物用の電車に飾り付けをして、街を走るんだ。市場の店も造花の桜の花を飾ったりして凄く賑やかだった」
「東京は賑やかなんじゃろう?一度行ってみたいなぁ」
「戦争が終わったら、連れて行ってあげるよ」