♥隣にいてくれる男♥-8
「ま、松本!?」
驚いた天野くんは、急ブレーキを掛けたみたいに立ち止まった。
ようやく向かい合った彼は真っ赤な顔。
その大きな手は汗が滲んでいた。
刹那、なんだか胸の奥から、何かが込み上げてくる。
あたしは繋いだ手にさらに力を込めて、ニッと笑ってみせた。
「ちょっと、あたし今日が誕生日なのよ? コンビニアイスなんかじゃなくてもっと気の利いたヤツにしてよ」
「えっ、あっ、そ、そうだったな。ごめん、俺お前の誕生日も今日知ったばっかで……」
真っ赤になって、目は泳ぎっぱなしで。
もー、挙動不審過ぎ。
パパに怒鳴りつけてくれた時と本当に同一人物なの?
さっきはあんなにカッコよかったのに。
ジーッと天野くんを見ていると、彼はますますあたしから目を逸らしてソワソワし出した。
そんな彼を見ていると自然と笑みが溢れてくる。
泣けるほど最悪な誕生日だったけど。
あなたのおかげで、ほんの少しだけ救われたよ。
「……ありがと、天野くん」
小さな小さな声でそう呟くと、あたふたしていた天野くんが、
「え、な、何か言ったか?」
と、やっとあたしの顔を見た。
照れた赤い顔。男っぽ過ぎて全然タイプじゃなかった天野くん。
ーー松本を泣かせる奴は例え親であっても許せねぇ。
さっき、あの人に啖呵を切ってくれた天野くんの姿が脳裏によぎり、密かに胸が締め付けられる。
天野くん……。
「もー、大事な事言ったのに。ちゃんと聞いてよね」
「ご、ごめん……」
「わかったわよ、じゃあ耳貸して」
あたしに言われるがままに耳をあたしに傾けてくる天野くん。
それでもまだ背伸びしないと届かなくて、あたしはくいっとつま先立ちになった。
「天野くん、大好き」
それだけ囁くと、「は?」と小さな声を出して、彼は慌ててこちらに顔を向けた。
あたしは、その一瞬の隙を突いて、天野くんの唇に自分のそれを重ね合わせる。
「…………」
突然あたしにキスをされて、天野くんは目を見開いたまま、固まっていた。
そんな彼を見て、プッと噴き出してしまう。
「誕生日プレゼント、もらっといたから」
そして、あたしがイタズラっぽくウインクして見せると、彼は身体を傾けた体勢のままーー。
「天野くん!?」
アスファルトに倒れてしまっていた。