第一話:私の彼を取らないで-4
ママは、智君を約14帖ある広いリビングに案内しようとしましたが、私は智君の背中を押し、無理やり先に私の6帖の部屋の中に入れ、慌ててドアを閉めました。私は、ママをジト目で見つめ、
「ママ、ジュースやお菓子は私が持って行くから、ママは私の部屋に入って来ないでよ?」
「エェェ!?どうしてぇ?」
ママは、不思議そうな顔で首を傾げましたが、サキュバスモードのママが、どんな事を考えて居るか何て、娘の私には痛い程分かりました。
「そんな格好して、どうしてって聞きたいのは私の方よ。智君は、ママとエッチしに来たんじゃなくて、私に勉強を教えに来てくれたんだからね?」
「フゥゥゥン、勉強を教えて貰うなら・・・私も良いのかなぁ?」
「ママ・・・人間姿でエッチしようものなら、パパに言いつけるから」
私は、ママの弱点であるパパの話題を出しました。パパは、ハロウィンの時期だけは、ママが他の男性とエッチする事を認めましたが、それはサキュバスの姿をしている時限定で、人間姿の時は絶対しないように、ママはパパに釘を刺されていました。ママは身体を左右に振って、
「イヤァン!千聖のイジワルゥ・・・でも、サキュバスの姿で勉強教えるなら・・・」
「ン!?ママ、今何か言った?」
「ウウン、何にも・・・ウフフフ、千聖、お勉強頑張ってねぇ」
私は、ママが意味深な表情で、口元に笑みを浮かべながら、私に手を振る姿を見て、絶対に何か企んでいると気づきました。だって、ママがあの表情を浮かべる時は、何か企んで居る時だと、幼い頃から見て来た私には分かりますから・・・
「ママ、その表情は何よ!?・・・何か企んで居るでしょう?」
「千聖ったら・・・ママがそんな悪巧みしそうに見える?」
「見える!」
私が何度も頷くと、ママは舌をペロリと出して、
「バレたかぁぁ・・・」
「ママァァァァ!」
「ウフフフ、冗談、冗談、千聖の部屋には行かないから、安心して勉強してらっしゃい」
ママはそう言うと、リビングにある本革で出来た三人用の黒いソファに腰掛け、リモコンでテレビを点けて見始めました。やけに素直なママに、私は一抹の不安を覚えましたが、グレープジュースとお菓子のクッキーを持って、自分の部屋へと戻りました。
「智君、お待たせ。お勉強始める前に、一息入れて」
「ありがとう、千聖ちゃん」
智君はそう言うと、コップを手に持ち、一口、二口、グレープジュースを飲み、室内を見渡しました。私の部屋は、壁や家具は白、カーテンやカーペットなどは、淡いパステルピンクを基調にして居ました。子供の頃から猫が大好きで、猫のぬいぐるみをベッド周辺に置いて居ました。
「可愛い部屋だね?」
「エッ!?あ、ありがとう・・・」
私は、智君が褒めてくれた事で、少し恥ずかしそうに俯きました。智君も恥ずかしそうにして、少しの沈黙が流れました。智君は、場の雰囲気を変えようとするかのように、バックから数学の教科書とノートを取り出しました。
「取りあえず、僕が応用問題作って来たから、最初の30分は教科書を参考にしながら、自分で解いてみて」
「ウン・・・頑張る」
私は勉強机に座り、智君が用意してくれた問題を解き始めました。少しして、智君はトイレを借りると部屋を出て行きましたが、私は智君に良い所を見せようと、問題に集中して居ました。勉強が苦手な私にとっては、智君が作ってくれた問題も大苦戦して、
「ウ〜ン、難しいなぁ・・・」
そう言いながら、チラリと机の上にある時計を見ると、30分を過ぎて居ました。私はフゥと息を吐き、
「エへへへ、何問か残っちゃったぁ」
私は、そう言いながら後ろを振り返ると、何故か智君の姿はありませんでした。私は不思議そうに首を傾げ、
(アレェ!?智君は?・・・・・まさか!)
私の脳裏に、Vサインするママの姿が過ぎった瞬間、私は勢いよく椅子から立ち上がると、慌てて部屋を飛び出しました。すると案の定、母の声がリビングから聞こえてきたの・・・