『やきもちと約束と』-1
「おらぁ!」
スパーン!
俺のサーブがコートの向こう側に突き刺さった。
「すっげー…」
周りからは感嘆の声があがる。俺、桐沢修也はテニス部員。今は最後の大会団体戦にむけて練習中なのだ。なんせ俺はこの部の副キャプテンだからな。
「はぁッ!」
ズダーン!
となりのコートでも痛烈なサーブが決まる。すると俺のサーブのときより大きな歓声が上がった。
「おおォォ!!すげぇー!」
「桐沢先輩も十分すごいけど、やっぱキャプテンは違うなぁ。」
…今サーブを打ったやつがキャプテンの新藤雄大。キャプテンだからテニスはもちろん俺よりうまいが、成績優秀、真面目で温和な性格で人望も厚く、おまけに顔までいい(俺だって負けてねー…はず)。まさに絵に書いたように完璧なやつだ。でもいつも上からものを言われてるような気がして、俺は新藤が好きになれない。
「へっ、速けりゃいいってもんじゃないだろ。」
俺がいやみのつもりでそう言ってやる。
「確かに、桐沢の言う通りだね。今のはコースがあまりよくなかったよ。」
だが、俺に嫌われてることに気付いていない新藤は、俺のいやみにそう答えるとまた練習に戻っていった。
「桐沢先輩、お疲れさまでした〜!」
練習後、校門を出ようとする俺にそう言って声をかけてくれたのは、マネージャーの高瀬朱美ちゃんだ。明るくて働き者で、おまけにかわいい。よくドジは踏むけど、マネージャーとして俺たち部員を支えてくれる縁の下の力持ちだ。そして俺が密かに想いを寄せている子でもある。
「おう、マネージャーもお疲れ!いまから帰りか?ずいぶん遅いな。」
「はい、後片付けしてたら遅くなっちゃって…。」
「そっか…。わりぃな、俺たちのせいで、いつもいつも…。」
「そんな!いいんですよ!あたしはみんなのプレー見られて楽しいし!」
彼女は生まれつき激しい運動ができない体らしい。でもテニスがすごく好きで、だからマネージャーとして働きながら、俺たちのプレーを見ているんだ。
「じゃあせめて俺が家まで送っていくよ。後ろ乗って。」
ちなみに俺は自転車登校だ。朱美ちゃんに荷台に乗るように促す。
「え!?そんないいですよ!先輩は練習で疲れてるんだし、それに私重いですよ?」
遠慮する朱美ちゃん。まぁ当たり前か。
「朱美ちゃんなんか重いうちに入らないよ。それにトレーニングに付き合うんだと思って…な?」
顔には出さないが、まだいっしょにいたいから俺は必死なのだ。
「ん〜…それじゃあ、お言葉に甘えて…。」
上目使いで俺の顔をのぞきこみながら朱美ちゃんはそう答えた。
「大丈夫ですか?重く…ないですか?」
走り出してすぐに、朱美ちゃんがそう聞いてきた。
「すっげー重い!」
冗談めかして答えてみた。すると…
「うぅ、やっぱり…。」
どうやら真に受けたらしい。かなりへこんだ声を出している。
「ハハハ!冗談だよ、全然軽いって!」
「ひ、ひどいですよ先輩!」
ひとしきり笑った後、しばらく間が空いて、朱美ちゃんが口を開いた。
「もうすぐですね、県大会。」
「そうだな。」
「これに勝ったら、全国大会ですね。…いけそうですか?」
「もちろん!絶対勝つさ。」
「そうですね、桐沢先輩も、新藤先輩もいますもんね!」
そこで新藤の名前が出てくるのは気に入らないが…。すると寂しそうな声で朱美ちゃんが語りかけてきた。
「この大会に負けたら…先輩たち、引退しちゃうんですよね…。私まだみんなの、桐沢先輩たちのプレーを見ていたいんです。だから…絶対勝って、それで全国大会まで行きましょうね…。」
俺の背中を掴む朱美ちゃんの手に、ぐっと力がこもった。全国…か。
「ああ、いっしょに行こう。約束だ。」
俺がそう答えると朱美ちゃんは笑った。