『やきもちと約束と』-3
俺が練習をサボり出して3日目、俺の家に思わぬ来客があった。
「やぁ、桐沢。」
「新藤…なんでお前が…」
俺の顔は今歪んでると思う。新藤の顔、見たくなかったから。
「一応キャプテンだからね。」
新藤は平然とそう答える。
「で、何のようだよ。部活のことなら、マネージャーに話しただろ?」
俺は不機嫌な声でそう言った。
「マネージャーは、桐沢が休み出した日に、君が来てないのに気づいて飛び出していってそれっきり、部活には来てないよ。」
意外だった。彼女、部活をすごく楽しみにしてたのに来てないだなんて…。
「そう…か。」
俺は黙っている。新藤も黙っている。
「…聞かないのか…?」
たまらず俺が言う。
「何か聞いたほうがいいのか?」
新藤はあくまで冷静だ。
「…いや、俺の下らないやきもちだ。聞かなくていい。」
俺は自嘲気味に笑ってそう答えることしかできなかった。
「そっか…。なぁ桐沢、下らないって気づいてるなら、やり直せないのか?」
やり直す…つまり部活に戻ってこいと言うことか。
「今さらどの面さげて戻れっていうんだよ…?」
下を向いたままそう聞き返す。新藤は静かに答えた。
「…部のみんなはお前を待ってるよ。もちろん僕も…マネージャーだって、きっと待ってる。それに、桐沢がいないと今度の大会は勝てないよ。僕だけじゃダメなんだ、桐沢がいないと。」
「意外だな、お前が俺を必要だなんて。」
「…みんな僕を完璧人間みたいに言うけど、本当はそんなことないんだ。僕にだって悩みもあるし、ダメなところだってある。誰かに頼りたいことだってある。桐沢は僕のこと嫌いかもしれないけど、僕は桐沢のこと、頼りにしてるんだよ。」
嫌われてるって、気づいてたのか。…でもこいつも意外と苦労してるんだな。少し新藤に対する見方が変わった。それにこいつの言う通り、やきもち妬いて意地はってても、しょうがないしな。
「…わかった。明日からまた頼むわ。」
俺はそう答えていた。
次の日から俺は練習に復帰したけど、朱美ちゃんは部活に来ないままだった。俺たちは初日の日程で県大会のベスト8にまで進んでいた。そして次の試合の前日。
「マネージャー、来ないな。」
新藤がそうつぶいた。
「…そうだな…。」
俺もそうつぶやくことしかできない。新藤が見かねたように言った。
「今晩、僕から電話しておこうか?明日の試合見に来るようにって。桐沢も出るって…」
「いや、俺が出るってのだけは黙っといてくれ。」
俺の申し出に新藤はうろたえる。
「えっ、でも…」
「『だいっきらい』なやつが出るなんて聞いたら、きっと来たくなくなるから…さ。」
俺は笑ってそう答えた。
そして当日、待ち合わせ場所に朱美ちゃんは姿を現さず、試合が始まった。現在俺たちは1勝1敗、今行われている試合も負けそうだ。これを落とせば俺たちの部は後が無くなる。メンバーに嫌な空気が流れ始めたそのときだった。
「ごめんなさい!遅くなりました!」
突然、声が聞こえた。今最も聞きたい声が。みんなの朱美ちゃんを歓迎する声が聞こえる中、俺はゆっくり振り向いた。
「…きっ、桐沢…先輩…?」
朱美ちゃんはきょとんとしている。
「遅いぞマネージャー。しっかり応援しろよ。…全国、行くんだろ?」
俺は笑ってそう言う。
「…ハ、ハイッ!」
朱美ちゃんはあわてて返事をする。俺は静かに彼女に謝る。
「…あのときは悪かったな。」
朱美ちゃんも何か言おうとしたが、そのとき前の試合の選手がコートから出てきた。
「悪い、桐沢、新藤。俺がもうちょい踏ん張れれば…。」
「ナイスファイト。気にするな。」
新藤が声をかけている。
「ドンマイ、後は任せろ。」
俺はそういってラケットを握る。
「先輩!がんばって…。」
俺はそれにラケットを軽く上げて答えるとコートに入った。