『やきもちと約束と』-2
その約束でさらに燃えた俺は、今まで以上に気合いをいれて練習していた。そんな大会を2週間後に控えたある日。廊下を歩いていた俺に女子生徒の会話が聞こえてきた。
「朱美、もしかして新藤先輩のこと好きなんじゃない?」
朱美!?その単語に俺はつい反応して聞耳を立てた。
「えっ!?な、なんでいきなりそうなるのよ!?」
確かに声の主は朱美ちゃんらしい。
「だってさっき話してたときもすごく仲良さそうだったじゃない!」
(そうなのか?)
「あれはマネージャーだからだって!」
なおももう一人の女子の追求が続く。
「でも、ずいぶん楽しそうだったじゃない?それにこの間、いっしょにお買い物行ったんでしょ?」
「あれは部のおつかいで!」
(新藤と行ったのか?部のおつかいなら俺でもいいじゃないか?…やっぱり俺より新藤のほうが…くそッ。)
俺の中に暗い感情がうずまく。
「あー、朱美顔まっ赤だよ?照れてるの〜?」
「ちょ、ちょっと!もう変なこと言わないでよッ!」
…もう聞きたくない。俺はそこから離れようとする。だが運悪く朱美ちゃんと目が合ってしまった。
「…あっ…。」
こちらに気付いた朱美ちゃんが声を上げた。俺はぎこちなく微笑むと、その場を走り去った。
(バカみてぇ…。何一人で舞い上がってんだ、俺は。)
放課後、俺は練習をサボって学校近くの公園でぼんやりしていた。今は新藤とも朱美ちゃんとも会いたくなかった。
「先輩!」
すると突然、声が聞こえた。今最も聞きたくない声が。
「…ハァ…ハァ…さ、探しましたよ…先輩。」
息をきらせている。走り回って探していたんだろうか。
「もう…練習…始まって…ますよ?早く…戻りましょう?」
…思いの外、普段通りの声が出せた。
「わりぃ。なんか急にやる気なくなったんだ。」
「…えっ…?」
朱美ちゃんが目を見開いた。
「なんつーか、俺も高3だしな。いつまでも部活ばっかやってるわけにもいかねーだろ?それにほら、俺バカだし。」
「で、でも約束したじゃないですか!いっしょに全国大会まで行くって!」
「俺なんかいてもいなくても変わんないよ。新藤がいれば大丈夫だろ。それに君だって新藤のプレーさえ見られれば満足…」
パシッ!
辺りに乾いた音が響いた。頬が熱い。
「私は先輩と…ッ!…もう知らない!先輩なんてだいっきらいッ!」
朱美ちゃんはそう叫んで走り去った。
(『だいっきらい』…か。何やってんだ、俺。嫉妬なんかして嫌われて…だっせーな。)
後に残るのは強い後悔の念。でもいまさらどうしようもない。俺は座りこんだままその場から動けなかった。