愛しき人-33
9時…
バスはホテルを出発し、観光スポットに向かった。
香織たちの後ろの方から話し声が聴こえる。
「そういやあ、今朝方、早く目が覚めて風呂に行ったらさ、何処からか喘ぎ声が聞こえてきたんだ…良い声で鳴いてたぜぇ…」
「ああ、俺も聞いたよ…ありゃあ別館の露天風呂付きの部屋からだ。多分、女は二人だな…」
「そうかい、朝っぱらからお盛んなこった」
ワハハハ…
香織と綾乃は顔を見合わせ、舌をペロッと出すとシートに沈んで行った。
二人は帰りのバスでまさに爆睡した。
起こすのは可哀想だと、点呼は田島がしてくれたようだ。
17時半にバスは予定通り帰着し、川島、佐々木、田島、香織が参加者を見送った。
最後に綾乃が降りてきた。
「お疲れさん、二人とも気を付けて帰んなよ」
佐々木が言った。
「はぁい、お疲れさまでしたぁ」
香織が答え、綾乃と二人で歩き出した。
「ねぇ香織さん、まだ早いからご飯食べに行かない?」
「行きますっ…家に帰っても独りだし、このまま帰るのも寂しいなって思ってました」
「あ、じゃさ、良いお店知ってるの。美味しいくてリーズナブルだから、学生のコたちも多いのよね〜」
「ヘェ〜楽しみ〜っ」
「イケメンくん、ナンパしちゃう?」
「しちゃうっ! 」
きゃはっ…
楽しそうに歩いて行く二人を、川島たちが優しい目で見守っている。
「二人ともイイ女だねえ…」
佐々木が呟いた。
「さて、ワシらも一杯やりに行くか…」
川島が言うと、三人は日が暮れかけた繁華街に消えて行った。