ふたりだけの ふたつずつの朝昼夜-2
10月30日 太陽が西に寄るころ
高速鉄道に乗って大都市を訪れていた、私と女のひとは、有名なスイーツのお店の行列の中にいた。
女のひとは、名前を言わない。たぶん女のひとも、私の名前を知らない。
だから私は女のひとを「お姉さん」と呼び、女のひとは私を「あなた」とだけで呼んでた。
そんな呼びかたは、どうでもよかった。
お姉さんは高速鉄道に乗る前に、私のスマホを分解して、通学カバンといっしょに駅のロッカーに閉じ込めてしまった。
そして大都市に着くと、駅の中の服屋さんで私を「さり気ない装い」に着換えさせ、制服も駅のロッカーに閉じ込めてしまった。
私は、誰でもない私になっていた。
だから、やっとお店に入れてスイーツを前にしても、それをすぐ味わえるうれしさを感じられた。
誰かに知らせなければならない行動なんかなかった。
私は、お姉さんのそばにいればそれでよかった。
お姉さんは、私が死にたがってることを知って、「いっしょに死のう」なんて誘って、私の死ぬ様子を楽しむだけかも知れない。そんなニュースがあった事が心をよぎった。
それでもよかった。
10月30日 夜
どこもハロウィン前夜でホテルが満杯なので、私とお姉さんはラブホテルに入った。
バスルームに入って、私は身体が固まった。
どこも鏡が貼られた壁の真ん中に、透明なバスタブが置かれていた。
(ここに入って、恥ずかしくないのがオトナの男女なんだろうなぁー。)
そう思いながら、バスタブにたまるお湯を見つめていると、
(ひゃあっ!)
声にならない驚きが身体を走り抜けた。
後ろに立っていたお姉さんが、私の胸を両腕で包んだんだ。
顔を上げると、どこを見ても裸の私がお姉さんに抱かれてる姿がうつる。
お姉さんは、私の耳もとにささやいた。
「あなたは、天使ね。」
(天使……?)私は答えられなかった。
「あなたは無垢な女の子だから、死んでもきっと 私とは別に天界へ行ってしまうのね。」
私は首を振った。
「いや。私、お姉さんといっしょに『星の世界』に行きたい。」
「『星の世界?』」
「そう。死んだら速攻で空に飛び上がって、火星や土星、太陽系を飛び出していろんな天体を見てまわるの。」
「そうね、それがイイわね。それじゃあ……」
お姉さんは私を抱っこして、お湯がだいぶたまったバスタブに入っていった。