♥勝手に浮かんでくる男♥-4
その後、パパが不倫相手と交わした会話の内容は、ほとんど頭に入って来なかった。
ただ、歯の浮くような愛の言葉を囁いたり、二人の未来を語ったり、恋人同士の会話をしていたようだった。
吐き気が込み上げてきて、思わず手で口を覆う。
もはや喉の渇きなんてどうでもよかった。
優しくて、カッコよくて、ママとラブラブだった自慢のパパ。
……どうして、こうなっちゃったんだろう。
パパが不倫をしている事を知った時、一気に目の前が灰色になった。
ママ以外の女に愛の言葉をコソコソ電話で囁いている姿を見て、この世の終わりが来たとさえ思った。
でも、まだ救いだったのは、ママがパパの秘密を知らないってこと。
それほどパパは、今まで通り変わらずママに優しくて、愛情を惜しみなく注いでいた。
いや、そう見せていたのだろう。
パパが家族に優しくすればするほど、もうあたしは彼の姿が白けて見えて。
ママに感謝を述べるその口で、不倫相手に愛を囁き、ママに触れるその手で不倫相手を抱いているのだから。
そんなズルい男は、結局自分が一番大切で、両方にいい顔しておいしい思いをしているのだ。
「もうすぐ離婚する」とか「妻とは冷めきっている」と不倫相手に言う言葉は、単なるリップサービスなのも、家にいるパパの態度でわかる。
家庭の温もりをキープしつつ、恋愛の楽しさを味わいたいだけ。
どちらかに誠意を見せるわけでもなく、不倫を続けているのだ。
でも、長いことこんな状態を続けられると、何を信じればいいのかわからなくなる。
パパにとって、本当は家庭が一番大事だと思い込もうとしても、不倫相手のために超一流ホテルに泊まろうとしているのなら、やっぱり不倫相手の方が大事だとしか思えない。
震えていた膝は、いよいよ身体を支えきれなくなって、あたしは力無く床へ座り込んだ。
冷たいフローリング。ホコリ一つ落ちてないそれは、ママが毎日お掃除を一生懸命してくれている証。
あたしやパパが気持ち良く過ごせるような家を作ることが、ママの仕事なんだって、前に聞いたことがあったっけ。
それなのにパパは、そんなママの事を踏みにじって、来週の水曜に不倫相手と、ホテルに泊まる。
フローリングに涙が落ちた。
もう……もう、こんなのイヤだ。
誰か、あたしを助けてよ。
リビングの向こうで、パパの楽しそうな声だけが静かな夜に響いていた。