第十章 覚醒・もう一人の私-5
「なぜ…って、もともとそういう才能があって、それがキッカケを与えられて覚醒した、ということじゃないのか。」
「半分正解ですぅ。ね、ルリアさん。」
「うん、そうね。」
「なんだよ。」
「ね、私のこと、アーちゃんて呼ぶでしょ。」
「うん、昔どおりにね。」
「私、もうあの頃の、子供のアーちゃんじゃないのよ。それなのにいつまでもそう呼ばれて。なんだかオンナ扱いされていない気がするの。」
「そんな、俺は親しみを込めて…。」
「分かってる、分かってるけど…私の気持ちも分かって欲しい。」
「…そうだったんだ。」
「ねえ、動画見て気づいた?私、自分で自分にはするけど、まだオトコを知らないの。」
「うん、気づいた。あれだけの事をしているのにどうしてだろう、って思った。」
「古風かもしれないけど、やっぱり初めては本当に好きな人に捧げたいの。だけど、その想いは伝わらない。イタズラのように触ってはくるけど、そこから進んでくれない。他の人とはするのに。」
「ぐ…。」
「ま、そういうことですよぉ。あなたの数々の行いがキッカケになったというのは当たっているけどぉ、その前にぃ、そもそもあなた自身に問題があるんですよぉ。」
俺は何も言えなかった。もう一人の自分に恥ずかしいことをさせ、それをネットに流してまで自分を傷つける。そうまでしなければ埋められない悲しみを、与えてしまっていたのだ。
彼女は上目遣いに俺の方を見ている。
俺は手を握り、一緒に立ち上がった。
どちらからともなく全てを脱いだ。シンジのカメラがそんな二人の方を向いている。
抱き寄せて唇を合わせた。激しく舌を絡め合った。そのままベッドに倒れ込み、二人はカラダを重ねた。
「ねぇ、これぇ。」
シンジが、四角くて薄いビニールのようなものをヒラヒラさせている。一旦ベッドから降りた俺がそれを受取ろうとした瞬間、彼がボソっと囁いた。二人は目を合わせ、微かに口元を緩めた。
俺はシンジがくれた被せ物をベッドの淵に腰かけて装着し、カラダを彼女の上に戻した。
見つめ合い、互いの肌を互いの肌で隅々まで確かめ合った。
「それじゃ、行くよ、…ルリア。」
「うん…。」
ルリアが目を閉じ、俺は俺の全ての重みを彼女にあずけた。