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スイッチ、オン 〜 The actress on through the lens
【その他 官能小説】

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第一章の1 初めてなのに-1

 「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
 商品棚の前で困った顔をしているお客さんに声をかけた。
 「あの…スマホはどの本を読めば使えるようになりますか?」
 少し小柄で、なんとなくぼんやりとした目をしている、穏やかそうな女性だ。俺と同じぐらいに見えるから、二十歳を少し過ぎたぐらいだろう。
 肩にかかる癖のない黒髪、透き通るように白く滑らかな肌の優しい顔立ち。
 サラっと涼し気な薄い布の赤い膝丈スカートと、網目の荒い白いサマー・ニットシャツがよく似合っている。
 靴のセンスもいい。シンプルで歩きやすそうなローカットの白いスニーカーだが、カジュアル過ぎない。ナイスなチョイスだ。
 とても素敵な女の子だ
 でも…。
 理由は分からないけど、ときめき以外の何かが胸の奥で燻り始めた。
 まあまあ名を知られた私立大学の三回生になり、いつまでも遊んでいるわけにもいかなくなった俺は就活を始めた。就職支援室にはドス黒い募集がところせましと貼り出されていたが、どうせ続かないのが分っているものに応募してもしょうがない。かといって、ピュアホワイトな企業にいくら履歴書を送り続けても、一次面接への招待状に化けて戻ってくることは無かった。
 あれやこれやのうちに気がつけば卒業していた。奨学金という時限爆弾は既に点火済みだ。とりあえずバイトを始めたのは、何もしていないという罪悪感から逃れたいという気持ちばかりではなった。
 自宅から近くて通いやすいから、というだけの理由で選んだバイト先のこの本屋は、駅前ショッピングモールに新規開店のためのスタッフをちょうど募集していた。
 調べものはたいていネットで事足りるし、注文すれば翌日に送料無料で本が届く。雑誌にしたってデジタル書籍化が珍しくなくなってきた。そんな時代にあってわざわざ本屋を新しく作るなんて、と思っていたが、意外なほどに利益は出ていた。
 紙で読んで紙で持っていたい、手にとって選びたい、偶然の本との出会いを楽しみたい、大きく広げた時の一覧性で紙に勝るものは無い、などの理由で来てくれるお客さんが多いのだと先輩のユリカさんが教えてくれた。町の書店にもまだまだ役割が有るようだ。今俺が声をかけたお客さんもその一人かもしれない。
 「スマホの本をお探しですね?お使いなのはヤンドロイドですか、それともマイフォーンでしょうか。」
 「ヤン?今使ってるのはこれですけど…。」
 彼女が差し出したのはガラケー。それもだいぶ古いモデルだ。しかし、新品のようにピカピカ。大切に使っているのだろう。好感を持った俺は、基本的なところから丁寧に説明することにした。
 「スマホには大きく分けて二種類あるんですよ。自分好みにいろいろな使い方が出来るヤンドロイドと、出来る事は限られてるけどその分使うのが簡単なマイフォーン。」
 「え、じゃあこれからスマホにする私にはマイフォーンがいいんですか?」
 「とも言いきれないんですよ。例えば…。お仕事でペクセルってお使いになります?」
 「あ、はい、毎日使ってます。」
 「最初触ったとき、どう思いました?」
 「何がなんやらで、呆然としたのを覚えてます。」
 「今はどうですか?」
 「あ、普通に使えてますね。」
 「ではメールソフトは?」
 「文章を打ち込むだけなので、すぐ使えました。」
 「ペクセルは使い込むほどに出来る事が増えていく。でも、メールはいつまでたっても文章を入れて送るだけ。」
 「ヤンドロイドがペクセルで、マイフォーンがメール?」
 「まあ、イメージですけどね。それぞれに良さがあるし、スマホに求めるものは人それぞれですから、どっちが良いということではありませんよ。」
 国内ではマイフォーンが僅かに優勢だけど、世界的に見ればヤンドロイドのシェアは八割を超えていて圧倒的なんですよ、なんて話は戸惑わせるだけなのでしなかった。
 彼女は結局何も買わずに店を出た。どちらにするか、ゆっくり考えた方がいいですよ、という俺のアドバイスで。
 「ありがとうございましたー。」
 と頭を下げたとき、隣の棚で商品の入れ替えをしていた同期のナツミが睨んでいるのが見えた。なにサボってんだ、客逃して。コラー、ってところだろ。気がキツいからなあ。でも、イヤな子、ってわけじゃない。元気があって明るく、屈託ない。出るとこ出てる、いいカラダしてるし。
 平積の補充のためにバックヤードに入ったところでユリカさんに呼び止めれた。
 「頑張ってるね、お客さんへの対応も丁寧だし。」
 「ありがとうございます。」
 「あとは、一人のお客さんにかける時間をもう少し短めに出来るともっといいかも知れないわね。」
 「あー、さっきの。」
 「まあ、可愛い子だったから、しょうがないよね。」
 そう言って俺の頭にポン、っと手を載せた。こんな人がお姉さんだったらいいのに。実の姉があんなんだから、余計にそう思う。ふくよかな顔立ちが、彼女の人柄をよく表している。
 何をすればいいのかサッパリ分からなかった俺とナツミに優しく仕事を教えてくれたユリカさんは、別の本屋で働いていたベテランだ。事情があって引っ越してくるのと同時にこの店に応募したと言っていた。
 店長は隣の駅にある本店に居た人だ。実績をあげようと必死なのだろう、いつもイライラしている。せっかく美人なのにもったいない。
 この店は以上四人と本店からの応援でやっている。背中合わせの雑誌棚三本、小説二本、コミックス三本、児童書などが一本。奥の壁には趣味の本と参考書など。レジ周辺には話題の書籍が平積みされている。かつて隆盛を極めていたゲーム攻略本は本屋から消えた。ネットの方が情報が早いしタダだから売れなくなったのだ。というわけで、要するに典型的な街の中型書店だ。現在のスタッフ数でちょうどいい感じに回っている。


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