〈破断される鶴翼〉-1
「ん"ん"む"ッ!!む"ぎッ!?んぎッ!!」
十畳ほどの広さの鶴の間では、六人対一人の戦いが行われていた。
戦いといっても多勢に無勢の一方的な“攻撃”であり、しかも孤軍奮闘しているのは白岩麻衣という女性なのだから勝敗は既に決まっていた。
『そこの縄の束、一つ取ってくれ』
『もうちょい長いの余ってない?これじゃあちょっと足りないカンジだよ』
浴衣を剥ぎ取られた麻衣の唇には、手拭いが横真一文字に結ばれていた。
口の中にも手拭いが押し込まれているのは膨れた頬を見れば分かったし、絶対に吐き出せないよう結び瘤を作った手拭いで上から縛るという念の入れようだ。
「んぎ〜〜ッ!!む…うおッ!?ぷふぉッ!?」
『もっと縄引いて脚上げさせろ。よ〜し、こんなもんじゃねえか?』
『おい、左肩が下がりぎみだぞ。ちょいと調整してくれ』
純白な下着を曝した麻衣は、汚ならしい色をした麻縄の襲撃を受けていた。
上半身は後手に縛られ、利き手側である右足は屈曲させられたまま縄を巻かれて閂縛りにされていた。
天井を走る太い梁。
張り巡らされた桁。
しかし、古い建築物らしく天井は低く、その梁や桁に縄を廻して掛けるのは容易かった。
(だ…誰なのよぉ…ッ!?なんで私がこんなッ?こんなの嫌よぉッ!!)
麻衣は部屋の真ん中で、左足一本だけで立っている。
両腕は背中に回されて自由を奪われ、自慢の胸までも麻縄に挟まれて絞り上げられていた。
背中にある結び縄と肩に掛かる縄からは余り縄が伸び、それらは張り巡らされた梁に繋がっている。
あまつさえ右足は曲げられたままで、麻縄によって吊り上げられてしまっているのだ。
後手片足吊りという緊縛の縄化粧は、この旅館の“持て成し”の裏に仕掛けられた《罠》の実体化であり、片足立ちで上体を反らせた様は、さながら鶴の舞いのようである。
『ひゅ〜…画面で観るよりイイ女じゃねえか』
『おいおい、俺らを睨んできやがったぜ?心の中じゃあビビってんだろうによぉ』
『ヒヒヒ!そうこなくっちゃ面白くねえやな。ただ泣くだけの女を虐めてると“罪悪感”が生まれっからさあ』
いきなり見ず知らずの男達に部屋に連れ込まれ、縛られて吊し上げられて怖くない女性はおるまい。
それでも麻衣は自らを奮い立たせて眼力を込める。
例え相手が何者だろうが、“好い様”にされるつもりなど毛頭無いのだから。