〈戻れない夏〉-1
強い陽射しが照らす昼下がりの午後、赤いラインの入ったクリーム色のディーゼル気動車が無人駅に停車した。
駅の辺りは鬱蒼とした緑に包まれており、夏の始まりを喜ぶ蝉の鳴き声が騒音のように響いている。
降車扉は開き、パンパンに膨れたバッグを抱えた四人の女性だけがその駅へ降りた。
聞こえてくる音といえば猛烈な蝉時雨だけで、人工的な音といえばディーゼル気動車の走り去る音のみ。
雑木林の向こうに舗装道路がチラリと見えるが、そこを通る車の姿は見えなかった。
「やっと着いたあ」
「これがまだなのよ。あともうちょっとだけあるの」
軽くカールの掛かった栗毛色の長い髪は湿り気を含んだ熱風に揺れ、その乱れは白魚のような指に掻きあげられた。
(ちょっとコレ…やっちゃった感が半端ない……)
その栗毛色の髪の女性は刺すような陽射しを少し睨み、車掌に切符を手渡してホームを歩く。
後ろに並んだ三人も見よう見まねで切符を手渡すと、その女性の後をついていった。
「この駅に送迎車が来てくれるって。ホントにあと少しだからね」
先頭を歩く女性は白岩麻衣という名で、大学四年生の女子大生だ。
凛とした瞳は整えられた眉によって一層際立ち、スラリとした鼻筋やスレンダーな身体はモデルと見紛うほど。
白い肌は陽射しを浴びてより白く輝き、それは水色のTシャツとダメージジーンズの青をより強調させていた。
田舎の山間には似つかわしくないこの女性が四人組のリーダー的な存在で、こんな人も通わぬような駅に降りる事になったのは彼女の提案によるものだった。
……去年の夏休みに海に出掛けた四人組は、あまりの人混みに疲れた挙げ句、麻衣を筆頭にナンパ目的のチャラ男達に付きまとわれるというオマケまで付き、全く楽しむ事が出来ないままに日程を終えるという残念な結果を招いてしまっていた。
ならば人混みなど有り得ない“山”に行こうと麻衣が言い出し、四人でネットを漁っているうちに一軒の古い旅館を見つけた。
遊ぶ所など無いとわかっていながら、それでも山間にひっそりと佇む旅館という幻想的な魅力に惹かれた四人は、夏休みの始めに忙しない日常からの逃避を兼ねた一泊二日の小旅行を計画して、そして実行に移したのだった……。