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《夏休みは始まった》
【鬼畜 官能小説】

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〈戻れない夏〉-3

「……あ、もう来てたんだ。どうも初めまして」


ホームから降りると僅かばかりの駐車場があり、そこにシルバーに輝くミニバンが止まっていた。
白髪混じりの丸刈りをした初老の男は旅館名の書かれた法被を羽織っており、麻衣の顔を見るやにこやかに頭を下げた。


『これはこれは。遠い所を遥々訪れてくれまして……私はフロントスタッフの中原と申します。さあさあ暑いですから早く車にお入りになって』


中原という男性スタッフは着替えなどで膨れたバッグ等の手荷物を受け取ると、慣れた手付きでカーゴルームに綺麗に並べていった。

手ぶらになった四人は順番に、サードシートとセカンドシートに二人ずつ並んで座った。
もちろんサードシートには奈々未と真夏が、セカンドシートには麻衣と里奈と…である。


『この駅からなら三十分くらいで到着します。もう暫く辛抱してくださいませ』


ミニバンはゆるりと走り出し、杉や欅の林の間を抜けていく。
いくら舗装路であっても曲がりくねった道は乗り心地も悪く、送迎車の登場に安堵した四人もたちまち無口になっていた。


「結構揺れるね…?」

「ん……」


「ニッ」っと声が聞こえてきそうなくらいに口角を上げ、糸のように細めた目を半月の形に丸めた真夏の笑顔が奈々未は好きだった。

奈々未は同性愛者ではなかった。
恋愛対象に女性を選んだ事はなかったし、まさか同性から告白される日がくるとは想像だにしていなかった。
でも真夏からの告白を、不思議と嫌だとは思ったりしなかった。
仲良しの友人が抱いていた秘密を知った……その驚きだけだった。



『ここから山道になります。デコボコの道ですから頭とかぶつけないように気をつけてくださいませ』





赤茶けた土が剥き出しになった道が、ススキやヨモギの生えた草っ原を分けて延びている。
やがて葉を目一杯に生やした枝が道を覆うようになり、ミニバンは緑のトンネルの中を駆けるかたちになっていった。


「ず、ずいぶん凄い所に旅館があるんですね…?」

『皆さん驚かれます。ですが秘境の湯というのが旅館の売りでして……でもこの林を越えると道も“なだらか”になりますから……はい』


お客様を乗せた車が走っていいような道ではない。
凸凹はより強さを増し、かなり速度を落としても上下左右への揺れは一向に収まらない。


「麻衣先輩。なんか探検みたいで楽しいですね?」


里奈は隣で揺れる長い髪と、タプンッ!と弾む重そうな胸をチラリと見た。

白岩麻衣という女性は里奈の憧れだった。
それはサードシートの二人の間に漂う〈感情〉ではなく、自分の理想像としての《想い》である。

日本人離れした完璧な美顔に、一分の隙もないボディーライン。
伸びやかな肢体は里奈には望むべくもなく、いくらミニバンが激しく揺れても胸元は寂しくも平然としたまま。




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