♠刺激的な女♠-7
「ぐぇっ」
カエルが踏んづけられたような声が出る。
それもそのはず、ゴリゴリの筋肉質な腕でキツく抱き締められるとそんな声も出る。
つーか、何が起こってる?
柄にもなくサッパリとしたいい匂いが男の身体から香って、まるでそれが何かの媚薬みたいに身体がカッと熱くなった。
「アタシがここまで運んだのよぉ。ホントはアタシのベッドに寝かせようと思ったんだけど……」
「ダメだよ、吾郎さん。天野くんはノーマルなんだから」
男の身体ごしに見えたのは、小野寺くんが遅れて部屋に入って来た所。
「だって、この子超タイプなんだもの。昼間、お店で見たタイプの子が目の前にいるんだもの。興奮しちゃってぇ」
男はそう言うと、俺の頬にブチューッと唇を押し当ててきた。
何だ、コレ?
一気に真っ白になる頭。キスをされた時のヒゲの感覚だけが生々しく残っている。
訳が分からず瞬きを繰り返していると、美女がクスクス笑いながら俺の視界に入ってきた。
「わかったでしょ、あたしの言っている意味」
恐る恐る俺に抱き着いている男の方を見ると、潤んだ瞳で上目遣い。
これは、もしや……、
「吾郎は、見た目こんなだけど中身は女だから。ちなみに、天慈も同じなの」
……は? 小野寺くん……も?
びっくりして目玉だけを小野寺くんの方に向けると、彼は少し苦笑いになって口を開いた。
「天野くん、松本さんが心配でここまで来たんだよね?」
「……小野寺くん」
「ゴメンね、ちゃんと僕らのこと、天野くんにも話しておけばよかったんだよね。でも、僕……自分が、“こういう”人種ってこと、周りに知られるのが怖くて……」
「……松本は、知ってたのか?」
少し言い淀んでから訊ねると、小野寺くんはちょっときまりが悪そうに目を逸らして頷いた。
「松本さん……里穂ちゃんは、ひょんなことから僕の正体を知ったんだ。そこからは僕の数少ない理解者になってもらってる。僕は、吾郎さんみたいに大っぴらにする勇気がまだなくて……」
「じゃあ、松本がしょっちゅう小野寺くん家に泊まってるってのは……」
「うん、本当に友達が泊まりにきてるって感じなんだ。里穂ちゃんはファッションやコスメとかすごく詳しいし、ガールズトークしてるだけなんだ。だから、天野くんが心配するようなことは神に誓ってないから、信じて?」
少し不安げな、伺うような視線。
そんな目をされたら、文句なんて何も言えねぇじゃねーか。