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『空遊魚〜rainy day〜』
【ファンタジー 恋愛小説】

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『空遊魚〜rainy day〜』-1

『あなたの見る夢には、きっと、ずっと静かに雨が降り続けていたのだろう。
その雨は冷たく、あなたの傷口を濡らし続け、あなたの傷が癒えることはなかった。
今も降り続けるその雨を、止ませることはきっと僕にはできないのだろう。
それでも…』



どうしてこんな仕事に就いてしまったのだろうか、と思う。一応国立大学を出ている訳だし、その気になればもっと人の役に立つような仕事や、もっとやりがいを感じられるような仕事や、少なくとも人に怯えられたり憎まれたりはしないような仕事に就くことだってできただろう。当然、この仕事だって悪いことだらけじゃない。公務員だから収入は安定しているし、単純で簡単な仕事な上に僕がよほどもたもたと仕事をしない限りは残業もめったにない。それに、たまには感謝されることだってあるのだ。
今日の一件目の『客』は、そういった人だった。
「ツヅキ・ミツヨ様ですね。」
僕はいつものように、明るくない笑顔を作った上で話しかける。
「ああ、役場の方ですか。待ってましたのよ。もういつ来るか、いつ来るかと思っていまして。そうですか、今日ですか。」
「はい、正確には明日の午前零時二十三分です。」
そう告げてから、いつもの決まり文句を言う。
『残念なことですが。』
「いえいえ、待っていたと言ったでしょう。もうそろそろ疲れてきましたところですし、あの人も待っていることでしょうしね。」
「はい。」
もう、この仕事を始めて三年目になるけど、未だにこの『宣告』に感謝をしてくれる人の気持ちが分かることができない。そういう時、僕はどんな顔をしていいのか分からなくなる。

僕は必要な書類を手渡し、残りの連絡を済ませ、すぐにその場を後にすることにした。
帰り際、その老婆は僕に礼を言った。
「どうもありがとうございます。」
と。その頬には涙が流れていた。その涙はあるいは喜びのためのものだったかもしれない。でも僕は、やはり悲しみもその中に含まれているに違いないと思う。
『今まで、お疲れ様でした。』
マニュアル通りの文句を告げて、僕は老婆の元を後にした。
この台詞は、何回言ってもしっくりこない。たちの悪いジョークにすら思える。
もっと気の利いた言葉があるはずだ。

これから死を迎える人間に手向けるものには。

でも、結局は同じことだろうな。だって、何を言ったらいいのだろう。少なくとも僕にはわからない。
「死神」
皮肉をこめて僕らをそう呼ぶ人もいる。遺族に恨まれたこともある。でも、そんなのってないじゃないか。僕らは仕事をしているだけなんだ。僕らがそこに行くから人が死ぬわけじゃない、人が死ぬから僕らが行くんだ。どうして僕が恨まれなくちゃいけない。
だからといって、今回のように感謝されても、それはそれで、やりきれない思いが冷たく心を覆う。

雨の日は憂鬱だ。もうとっくに割り切ったはずのいろいろな想いが、傘を打つ雨のリズムで起き上がり、動き始める。


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