第3話『オリンピック』-1
第3話『オリンピック』
8月×日。
『オリンピアン』が開幕した。 ヨアンのお家に集まって、お喋りしながら開会式を鑑賞した。 選手入場は、昔は『アルファベット順』に行われたそうだけど、世紀が変わってからは『五十音順』だ。 しかも何故か開催国が最初で、最後がニホンになっている。 お前ら山猿は『に』だろうがとツッコミつつ、『イーユー・ユニオン』代表を応援だ。 選手団の数は、1位の『サウス・ペニンシュラ』が900人、2位の『サッカー・サンバ』が550人、3位は『イーユー・ユニオン』で500人。 知っている顔も知らない顔も、みんな楽しそうに歩いていた。
最後に入場した『ニホン』は22人で、女性は一人もいなかった。 何故か知らないけれど、出場に必要な標準記録を上回ってる選手は沢山いるはずなのに、ニホン人はいつでも22人の選手団だ。 きっと、22人に特別な拘りでもあるんだろうけど、ニホン人が考えることはよく分からない。
最初の競技は水泳だ。 400メートル個人メドレーを皮切りに、100メートル自由形、100メートル平泳ぎ、100メートル背泳ぎ、100メートルバタフライ……全部ニホン人が金メダルをもっていった。 銀メダルが『金より良い』とか銅メダルが『金と同じ』っていったって、やっぱり『イーユー』の代表が一番高いところに立って欲しいから、ニホン人が金を独り占めするのを見ると、ちょっぴり悔しい。 200メートルや400メートルにはニホン人が出ない。 だったら、あたし達にも金メダルの可能性がある。 水泳を応援するのは、100メートル系が終わる明日からにしよう。
8月△日。
新聞は『オリンピアン』一色だ。 あたしもこの一週間で随分スポーツに詳しくなれた。 クレー射撃に馬上射撃、アーチェリーにボクシング。 カヌーやケイリンを含めれば、新しく知ったスポーツの数は両手でも足りない。 でも、見ていて楽しいのは、何といっても球技だ。 今日はバレーボールとバスケットボールで『イーユー』が金メダルをとった。
ただ、バレーボールもバスケットボールも、テレビの観戦はやっていないから、新聞のニュースで一喜一憂するしかないのが寂しい。 バレーボールが放映してもらえない理由は簡単で、ニホン人が出場してないからだ。 あたし達『イーユー』が強い種目は、サッカーとかラグビーみたいに団体種目が中心なのに、ニホン人は個人種目にしか出てこない。 だから、政府系テレビに団体種目は映さない。 ケーブルTVは放映しているけれど……契約料が高すぎて、とても手が届かない。 少なくともあたしんちはダメ。 サッカーだけは、決勝戦に『イーユー』のチームが残ったら絶対応援したいから、ヨアンのお家にテレビ目当てで押しかけるつもり。 今の所ベスト16には、『イーユー』から『ヘルマン』と『ランス』、『ポルト』と『パスタ』、それにあたし達の祖国『ホランド』。 合計5チームが残っている。 16分の5なら、上々じゃない? この調子で頑張って欲しい。
8月□日。
テレビで『イーユー』のメダル特集をやっていた。 金メダル13個、銀メダル19個、銅メダル21個。 メダルの数なんて気にしてなかったけれど、メダル順位でいうと現在2位なんだそうだ。 稼ぎ頭はヘルマン勢で、獲得メダルの半分ちかくヘルマン出身らしい。 生真面目で融通が利かない連中だと思ってちょっとバカにしてたけど……いざ結果をみせられると弱気になっちゃう。 生真面目なのも頑固なのも、自己鍛錬に通じるのかなぁ。
ついでに『ニホン』のメダルも見た。 金メダル11個。 出場者全員が金メダル。 柔道無差別級で中量級がオール一本だったり、ボクシングヘビー級でどう見てもちっちゃいニホン人がオール1ラウンドKOしたり。 重量挙げで中量級のクセに『一トンリフター』だったり、体操個人で全種目最高点するやら、十種競技では個別種目の記録を全て抑えて総合1位とか……勝ち方からしてふざけ過ぎていて……なんなんだろう、ホントに。 圧勝過ぎてグウの音も出ないっていうか、すっかり慣れてきたっていうか……でも、ここで腹が立たなくなったらお終いなんだろうね。 だって、それって完璧に負け癖がついたっていうか、負けても腹が立たないなんて、負け犬以外の何者でもない。 悔しい時は、ちゃんと悔しがらなくちゃ。 悔しい時は、ちゃんと悔しいって口にしなくちゃ。 ああもう、山猿のくせに、山猿のくせに、山猿のくせにッ、山猿山猿山猿のアホ!