第3話『オリンピック』-2
8月◎日。
祝! サッカー準優勝!!
……なんて、白々しいからよそう。 優勝を信じてたからこそ、嬉しさ半分、口惜しさ半分。 でも、すごくいい試合ではあった。 ヨアンのお家でご近所さんが集まって応援できただけでも楽しかったし、みんなが1つになれた気がする。 だってクライフがロスタイムに同点ゴールを決めたときなんて、夜中の2時だってのに、街中が大歓声だったんだから。 それってみんな『ヘルマン』チームを応援してたってこと。 試合結果だって、3連覇中の南米相手にPK戦に持ち込んだだけでもスゴイことだ。 あと一歩……もうちょっと運が良ければ、とは思ったけれど、過ぎたことはしょうがない。 選手のみんなには、胸をはって帰ってきてほしいと思うし、あたし達はみんなを誇りに思ってる。
やっぱりサッカーはいいね。 スポーツとして、沢山の熱意っていうか、一生懸命さが詰まってる。 あとは、こんなに素直に応援できるのは、山猿が出場してないからっていうのも大きいんだろうな……。
8月✕日。
サッカーが終わって、気づいたら『オリンピアン』も最終日だ。 明日にはヨットやフェンシングの決勝があって、球技だとラグビーの決勝戦。 それにマラソンがあって、トラック種目の決勝がいくつかあって……明後日にはもう閉会式になる。 あっという間の2週間だった。 メダル順位は、金メダル20個で同率2位。 1位の『サッカー・サンバ』が51個なのは、もう1位に確定だ。 あとは2位争いなわけで……『ニホン』が金メダルが24個で並んでる。 別にメダルの数なんて気にしてない筈なのに、あたしも相手が『ニホン』だと話は別みたい。 正直いって、たった22人しか出場してない『ニホン』に負けるなんて納得できない。 できるわけない。
最終日に『ニホン』が出場してるのは『マラソン』1種目。 『イーユー』が優勝する可能性があるのは、『トラック』は南米勢だし、ヨットは南洋だし、フェンシングは半島勢が勝つらしいから、結局ラグビーの1つだけ。 何とかラグビーで優勝して、せめて『ニホン』と同率2位を死守してくれたら嬉しいんだけど……頑張れ『イーユー』、頑張れ『ホランド』の選手たち……。
8月▽日。
最高!!! オリンピアンでアドルフ・オットーがマラソンで金メダル!!!! ちょっと興奮して寝られそうにない。 街中が歓声で、うるさくて寝られないのもある。 こうなったらシャワーを浴びて、駅まで走ってくるしかない。 さっき、お父さんがランニング・シューズに履き替えて、奇声をあげながら外へ飛び出していった。
マラソン。 陸上競技で一番人気がある、過酷で素敵なスポーツだ。 当然ニホン人も出場していて、実際2位と3位はニホン人。 ニホン人が全競技で唯一2人エントリーするくらい、ニホンではマラソン人気が高いそうだ。 一番力を入れている競技も、きっとマラソンなんだろう。 でなきゃ2人もエントリーするわけがない。 絶対にマラソンで金メダルを逃さないために、万全を期して選手を2人選んだわけだ。
で、そんなニホン人絶賛視聴中のマラソンで、の話だ。 全部TVで生中継なマラソンで、だ。 トラック勝負で2人をごぼう抜きしたアドルフが、最後の最後にやってくれた。 ニホン人を倒して堂々の金メダル! テレビに映るアドルフのガッツポーズもさることながら、呆然とする山猿共が小気味いい。 気持ち良すぎて涙がでる。 ニホン人が出場した種目で金メダルを逃すなんて、何年ぶりだろう? 少なくともあたしは知らないし、お父さんもお母さんも聞いたことない、と言っていた。 そんな偉業を達成したのが、『イーユー』の、しかも祖国『ホランド』出身の、あたし達のアドルフ・オットーだ。 軍隊も科学もスポーツも経済も、全部もっていった憎い山猿に、あたし達のアドルフが見せつけてくれた! アドルフ万歳!!! 『イーユー・ユニオン』万歳!!!!
ラグビーが優勝できなかったなんて関係ない。 金メダルの数で『ニホン』に勝ったのも、いまとなってはどうでもいい。 ダメだ、書きたいことが多すぎて、もう日記なんてどうでもいい! あたしもみんなと一緒に走りに行く!!