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月明かりの夜に〜彼女たちの秘密〜
【同性愛♀ 官能小説】

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月明かりの夜に〜彼女たちの秘密〜-4



「思い出した?」
 いつのまにか石段に座っていた莉乃が、立ったままの真由を見上げている。
 屈託のない、あの夜と同じ笑顔で。
 だけど今夜は制服じゃない。
 体のラインにぴったりと沿った、タイトなシルエットの青いワンピース。
 真由は同じ色の、フレアスカートに白いブラウス。
 そして踵の細いハイヒール。
 ふたりとも大人になった。
 そう思うと、なんだか悔しくて悲しくなった。
 真由は隣に並んで腰を下ろし、莉乃の肩にもたれながらため息をついた。
「どうして大人になんかなっちゃったんだろう」
「大人になるのは悪いことじゃないよ」
 莉乃が髪を撫でてくれるのが心地よかった。
 でも、落ち着いた話しぶりに腹が立ってくる。
「あれは、子供だったからできたんだもん。大人になっちゃったら、もうあんなことできない」
「あんなことって?」
「だから、女の子と……莉乃と、キスしたりできないってこと」
「どうして?」
「だって、もうすぐ結婚するんだし、そんなの普通じゃないもの」
「普通じゃないことがしたいんでしょ?」
「それは、そうだけど」
 莉乃は相変わらず楽しそうに笑っている。
 なんだか馬鹿にされているような気になってくる。
「笑わないでよ、もう」
「ねえ、わたし真由に言ってみたかったことがあるんだ」
「え? なに」
「でも言ったら、もう会ってもらえなくなるかも」
「そんなわけないよ。気になるじゃん、言って」
 莉乃は笑うのをやめ、真由の肩に手を置いて内緒話をするように唇を耳に寄せてきた。
 そんなのはべつにたいしたことじゃないのに、おかしくなりそうなくらい心臓がドキドキしている。
 なんだろう、この感じ。
「真由、彼氏のこと好き?」
「う、うん。どうして急にそんなこと」
「わたしと彼氏、どっちが好き?」
 莉乃の声は震えていた。
 胸が痛くなった。
 答えは最初から決まっている。
 返事をするより先に、莉乃が言った。
「結婚しないで。わたし、真由が他の誰かのものになっちゃうなんて我慢できない」
「莉乃……」
「ごめんね、こんなこと言うつもりじゃなかったのに。真由は平気? わたしが誰かと結婚しても」
「そ、そんなの」
「いま、お見合いの話がたくさん来てるの。だけど、わたしがずっと一緒にいたいのは真由だけ。どうしたらいいのか、本当にわからない」
 莉乃は真由の腕にしがみつき、顔を伏せている。
 ついさっきまでは真由をリードしてくれるお姉さんのような態度をとっていたのに、いまはまるで頼りない少女のように見えた。
 こんなのは彼女らしくない。
 莉乃はいつだって凛として、みんなの先頭を歩いていく素敵な女性なのに。
 どう声をかけてあげたらいいのか。
 何も思いつかない。
 真由にできるのは、黙って莉乃を抱きしめることだけだった。
 腕の中にいる莉乃の体は思ったよりずっと細い。
 実際は真由も莉乃も同じような体格をしているのだけれど、彼女がこの世の何よりも弱々しい存在に思えてくる。
だからもっと強く抱き寄せたくなって困ってしまう。
「泣いてるの? 泣いちゃだめって言ったのは、莉乃のほうなのに」
「真由が悪いのよ、わけわかんないこと言って泣いたりするから。真由が泣くのは嫌なの、わたし本当に」
「ごめん、ごめんね、莉乃」
「どうしよう、真由に嫌われちゃう。こんなわたし、見られたくなかった。カッコ悪いよね、それにすごく気持ち悪いって思われちゃう」
「思わない、そんなこと。だって、わたしも」
 同じこと思ってた。
 考えないようにしようとしていただけで。
 莉乃が他の誰かのものになるなんて、絶対に許せない。
 押し隠してきた言葉が、次々に流れ出てしまう。
 だって、あまりにも今夜の月は綺麗だから。
 月の光の下で、本音を隠し通すことなんてできない。
 莉乃が顔を上げた。
 涙に濡れた瞳が、すがるように真由を見つめている。
 もしかしたら、自分も同じような目をしているのかもしれない。
 こんなところ、誰にも見られたくない。
 でも大丈夫。
 夜はすべてを隠してくれる。
 真由は莉乃の頬に手を添えて、そっと優しく唇を重ねた。



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