転機-1
ある日…衛が笑みを浮かべて帰って来た。
「お帰りさない、衛さん」
香織が出迎えると
「香織っ、今度さ、新しいプロジェクトの責任者に指名されたんだ!」
「そ、そうなの⁉良かったわね、衛さんっ」
香織は衛の嬉しそうな顔を見ると嬉しくなって、衛に抱きつきシャツに顔を埋めた。
衛の顔が一瞬曇ったが、素直に喜んでくれる香織を抱きしめる。
「でさ…急なんだけど、三週間後にインドに行かなきゃならないだ…半年ほど…」
とバツが悪そうに香織に伝えた。
「え?…え?…インド?…半年…?」
あまりに突然のことで、香織は衛を見上げ状況を理解しようとした。
「衛さん、あ、あの…私は?(どうすればいいの?)」
「ホントは香織を連れて行きたいんだけど、向こうは治安が良くないらしくてさ、色んな病気もあるし…だから、一人で行こうと思う…」
香織もインドは日本と比較にならないほど治安が悪いと聞いたことがある。
香織は俯きながら暫く考えたあと、口を開いた。
「そうね…私が一緒だと余計な心配掛けちゃうよね。分かったわ、家は私がちゃんと…守るから…お仕事頑張っ…」
声にならなかった。
大粒の涙が二つ、三つと床に零れ落ちた。
それを見て衛は香織を抱きしめた。
「香織…寂しい思いをさせてゴメン…これが成功すれば昇進も見えてくる。だから少しだけ我慢してくれ…」
「うん…衛さん、お仕事頑張ってくれてるんだもの…私は大丈夫……気を付けて…ね」
香織は健気に答え、衛の腕の中で泣きじゃくった。
暫くして香織は衛を見上げて…
「グスッ…泣いたらお腹空いちゃった…ご飯たべよ」