第21話『相談・花火大会』-1
第21話 『相談・花火大会』
【A3番】が発端となり、【A5番】で発展した史性寮行事、『花火大会』。 花火の調達などの準備が可能かどうか、【A5番】が上級生を代表して寮監室を尋ねたとき、寮監はモニターで昔の映像を眺めていた。
「幽醍寮の指導週間を撮影したものらしくてね、面白そうだから貸して貰ったの。 話があるなら、観終わってから聞いてあげます。 しばらくそこで待ちなさい」
といわれ、部屋に入ったところで待機することに。 結果的に【A5番】も他寮の行事を鑑賞することになった。 モニターの映像には『セミとり』とテロップがふってあり、木造の幽醍寮が映っている。 カメラワークは寮監だろうか、それともAグループ生の誰かだろうか。 まったく手ぶれせずに映す手際は中々のものだ。
映像は朝食の光景から始まった。 史性寮と同じく、アルマイトの食器にオートミールだ。 史性寮では先輩の排泄物、主に尿を混ぜた食事を後輩が直接犬食いでいただく。 一方で幽醍寮では『爪の垢』をふりかけ代わりに撒いたオートミールを、後輩がスプーンですくっていた。
食事が終わったものから順に、部屋に戻る。 と思うと、全裸になって部屋から出てきて、それぞれ寮の裏山に向かう。 裏山は楢や樫がしげる雑木林だった。 幽醍寮生は、同室の先輩後輩がペアになると、手ごろな木の幹にしがみつく。 互いに幹の反対側を掴み、手と手、脚と脚を絡ませる。 そのままズリズリ幹をのぼり、1〜2メートルの高さまで登ったところで、乳房を揺らしながら大声を出し始めた。 カメラはそんな幽醍寮生のペアを、交互にズームアップする。
『ぱ〜いぱいぱいぱいぱいぱ〜い……ぱ〜いぱいぱいぱいぱいぱ〜い……』
豊満な乳房を波打たせるペアがいれば、
『ちくちくぴ〜ん、ちくちくぴ〜ん、ちくちくぴ〜こ〜ちくちくぴ〜こ〜ちくちくぴ〜こ〜ちくちくぴ〜こ〜、ちくびしこしこしこしー……』
小柄なペアが木の幹に小ぶりなおっぱいを擦りつけながら喚いている。
『ま〜んま〜んま〜ん、まんまんまんまんまんまんまんまんまんまぁん……こぉ……』
整ったおっぱいを左右に規則正しく揺らしながら歌うものも、
『しぃこしこしこしこしこしこしこ……しぃこしこしこしこしこしこしこしこぉ……』
物悲しげに乳房を幹に打ちつけながら囀る生徒もいる。
寮生たちの声色を聞いて、やっと【A5番】にも事情が呑み込めた。 最初のペアは『ミンミンゼミ』で、次が『ツクツクホウシ』に『クマゼミ』、最後のペアは『ヒグラシ』になりきっている。 『ヒグラシ』を演じて寂し気に歌う寮生は、芸が細かいことに、より高いところまで登っていた。 察するに胸を揺すりながら声を挙げているのは、実際のセミが声を出す時に胸を振動させる点を真似ていると思われる。 鳴き声の調子も、いかにも本物のセミっぽい。
やがて『虫取り網』をもったAグループ生がやってきた。 木々にしがみついてセミを演じる少女たちは、既にプルプル震えている。 樫のようにごわごわした幹にしても、しがみつくのは相当に骨が折れるためだ。 少女たちは常に全力で、筋肉が乳酸でパンパンになるのも道理だろう。 そんな少女たちの頭に、スポリ、網をかぶせるAグループ生たち。 網をかぶせられた少女らは、捕まったということなんだろうか、幹から下りる。 不自然にブリブリとお尻を振っているのは、捕まって暴れる様子をトレースしているつもりだろうか。 セミになりきった少女たちは、頭に被せられた網に導かれるように、お尻を不恰好に振りながら、寮玄関に誘導される。 寮玄関には大きな鉄製の柵があった。 網から解放されたところで、檻の中に詰め込まれて、次から次に少女がやってくるため、すぐにギュウギュウ詰めになる。 本物の虫篭に詰め込まれたセミのように、檻の隙間から手足をはみださせながら、少女たちは『まんーまんー』『くりくりくり……』と鳴いている。 口を尖らせて意味不明に鳴く姿は、憐れを通り越して滑稽だ。
Aグループ生の中には、わざと狙いを外し、網で少女をつつくこともある。 そうするとつつかれたセミ少女は、手を放して幹を蹴り、パパッと地面に飛び降りた。 虫取りに失敗した時に、飛んで逃げるセミと似た動きだ。 しかも幹を蹴る際、少女の股間から黄色い飛沫が飛び散る様子を、カメラはしっかりとらえていた。 色、艶、出所から察するに、少女の尿で間違いない。 木から逃げながら尿をひっかける……確かにセミにも同様の習性がある。 そうして網から逃れたペアは、また別の木の幹によじ登るのだが、大して経たないうちに、また別の網でつつかれることになるのだった。