ダリアの引継ぎ-5
ランチは海岸沿いのラグジュアリーホテルのカジュアルレストランに決めていた。窓を開けて陽気に歌うエレナは、楽しそうに車窓から腕を投げ出して踊っているようだった。心地よい海の香りが運転席側から潮風として流れ込んでいた。左手に広がるオーシャンビューは強い日差しを反射するようにリゾート地域が輝いていた。
「エレナ、食べれない物はあるのか?」
「嫌いな食べ物なんてないわよ」
「違う。アレルギーを起こす食べ物はあるか?」
「アレルギー?分からないわ。なんでも食べてきたわよ」
強い潮風に長い髪の毛がエレナの顔にまとわりつくように跳ねていた。両サイドの窓を閉めて、潮風が落ちついた車内で乱れた髪を揃えていた。
「そうね生卵は食べないわ」
「他には」
「パンよりお米の方が好きね。あと果物ね」
「了解。OKだ」
長い脚を組んでバックミラーに顔を覗き込んで揃えた髪を確かめているようだった。顔を伸ばしたエレナの脚元は、広いグランドクラスでさえ狭く感じる程、豪華な脚線がドレススカートから綺麗にヒールに向かって揃えられていた。
「凄いな、エレナ」
「何が?分からないわ」
「エレナは綺麗な女性だよ」
「やだ、知ってるわよ。どうしたのかしらね」
サングラスの瞳は笑っているようだった。ラグジュアリーホテルのロビーを目指して、肩で息をするグランドクラスの速度を上げてエレナの歌声に耳を傾けていた。
ホテルのボーイに車のキーを渡し、身分証を提示してオーシャンビューのカジュアルレストランに案内してもらっていた。真っ白い砂浜と広い海岸沿いのレストランは観光客で賑わっていた。ボーイを呼んでグリーンマンゴーを頼んでエレナの手元に置いてあげていた。
「素敵。グリーンマンゴーは好きよ」
サングラスをテーブルに置いてストローから冷たいジュースを口に含んだエレナは、美味しいわ!と満面の笑顔で僕に笑いかけていた。
「何食べよっか」
「ポークソテーとバジルのパスタ、それにバケットを貰おう」
「うそ!はやーい」
「ゆっくり選んでOKだ。好きに選びなよ」
タバコに火を点けて綺麗な海を眺めいた。強い日差しの海岸から届く潮風の香りが、喧噪した街並みに溶け込むように流れ込んでいた。
「決まったわ」
「で、何にしたの?」
「アボガドバーガー」
「それだけ?他に無くていいのか」
「だって、ハンバーガーは大きいよ」
「たしかに。その通りだね」
日本と違い全ての食べ物の量は、食べ残す量で提供されていた。全て食べる日本と違い残して当たり前の国だった。地元のエレナは、スペイン語でボーイに話しかけてトイレを教えて貰っているようだった。
「ちょっと席外すわ」
観光客がざわつくようにエレナの姿を見上げていた。そりゃそうなるだろうと感心していた。見られる自分に照れることなく颯爽と7cmヒールで高級ドレスを着こなして歩く姿は誰もが圧倒される美しさだった。21歳の綺麗な女性が抜群のプロポーションでブロンドを靡かせれば観光客が見惚れてしまうのは仕方がないことだった。
「凄いでしょ」
席に戻ってきたエレナは、羨望される自分を自慢するように髪を後ろに靡かせて悪戯に微笑んでいた。お見事だ。そう伝えて声を出して笑ってしまっていた。