ダリアの引継ぎ-4
リビングに戻るとエレナが冷蔵庫の在庫を確認するようにメモを取っているようだった。一生懸命働くエレナに安心した僕は、日本のラジオに耳を傾けながら籐椅子に腰を掛けて強い日差しのバルコニーを眺めていた。
「何か飲む?」
「いや、何も要らない。それより今日の昼は一緒に食べに外に出よう。その帰りに海岸沿いの新しいモールで買い物をしてこよう」
「本当!嬉しい!!」
拍手するように手を叩いて喜ぶエレナは文句無く可愛いかった。冷蔵庫を点検する手元は左手に鉛筆を持っているようだった。
「エレナ、左手で書くのか」
「そうよ。でも英語は少し苦手ね」
「何語で書くの?」
「スペイン語よ」
現地の言語でメモを取るエレナに微笑みがこぼれてしまっていた。完全に恋人を得たような安心感に心は満たされていた。長らく忘れていた感情だ。今のこの瞬間を噛みしめるようにエレナを優しく見つめ、ありがとう。と声をかけてバルコニーに視線を戻して強い日差しに目を細めていた。
昼時を知らせる柱時計の音で目覚めた僕は、籐椅子で早い昼寝をしてしまったようだった。腰元にブランケットが掛けられ、エレナはインターネットを操作しながらメモ帳を見比べているようだった。
「お腹すいたかい?」
「あ、起きた。おはよう!」
「あぁ、おはよう。こんな時間に寝るとはね」
苦笑いする僕に、お腹ぺこぺこよ。と笑顔を向けてくれていた。
「エレナの準備が出来たら出掛けよう」
「OK。着替えた方がいいかな?」
「好きにしたらいい。そこは任せるよ」
「じゃあ、少しだけ待っててね」
メモ帳を見比べてインターネットを操作し終えたエレナは、急ぐように階段を駆け上がって行った。21歳の女の子らしい行動に目を細めて見届けてあげていた。
「お待たせ」
階段を降りてきたエレナは、昨日買ったばかりの新品のドレススカートに袖を通して真新しい7cmヒールを魅せるように華麗に僕の前で振り返るように振舞っておどけていた。
「似合うよ。とても美しいよ」
「知ってるわ。わたしはねスタイルが凄いのよ」
外出が余程嬉しいのか心からはしゃいでいるようだった。美しいエレナの腕を取り、はしゃぐエレナをやり過ごして、ガレージのグランドクラスの助手席にエレナをエスコートしてあげていた。
「ベルトは問題ないわ」
運転席に座った僕に向かって、デカい胸に挟まれたベルトを見せびらかせてサングラスを掛けた瞳は勝ち誇っているように輝いていた。
「さぁ、行こう。僕もお腹が空いたよ」
「let's go!!」
車内に響くR&Bに合わせて踊るエレナは、車窓に広がるフェニックスを見上げて歓喜するように流暢なスペイン語で陽気な歌をうたい始めていた。