ダリアの引継ぎ-11
羽毛布団で目覚めた僕は、天井を旋回する大きなシーリングファンを見上げてエレナとの性行為の真偽を確かめていた。僕に向かって自慰行為をして挑発するエレナの立ち姿はあまりにも現実離れした光景だった。頭を仰け反らせて喘ぎながら卑猥な視線で僕を視姦する姿も現実をあまりにも逸脱していた。全ての行為が官能的過ぎていたのだ。本当にやったのだろうか。事実を確かめるようと部屋を見渡してエレナを探していたときだった。
「あ、起きた」
扉を開けてベッドを覗いたエレナは、リビングの光に照らされた僕を見つけて声を掛けていた。真新しい上下のジャージに着替えたエレナは、乾ききっていないブロンドを後ろに巻き上げて留めていた。
「おはよう、いま何時なんだ?」
「朝の4時30分よ。寝たのは22時くらいだから結構寝てたことになるわ」
「エレナ、いままで何処にいたんだ?」
「やだ、寝惚けてるの?シャワーよ。起きてみたら身体中がベトベトしてて驚いてしまったわ」
真実を伝えるエレナにほっと息を吐いていた。クローゼットからガウンを取り出してリビングに戻り朝靄のバルコニーを眺めて安心して煙草に火を点けていた。
「珈琲淹れようか?」
「ありがたい。頼むよ」
「目が醒めた時、本当に驚いたわ。夢だったんじゃないかって辺りを見回ししてしまったのよ」
「僕は寝てたわけだね」
「すごいイビきで寝てたわ。でも、夢じゃないんだって安心したわ」
「全く気が付かなかったよ」
「そりゃそうよ。貴方を起こさないように直ぐにシャワーに入ったわ。わたしの身体、あなたの液体でカピカピで凄かったのよ」
珈琲をテーブルに置いたエレナは、悪戯した子供のような瞳でウインクを決めてキッチンに戻って行った。
「湯船沸かす?」
「いや、いい。熱いシャワーに入ってくるよ」
「身体洗ってあげようか?」
「ありがとう、でも今回はいい」
「OK。頼み事は何でもエレナに言ってね」
嬉しそうに食器を磨くエレナは、幸せそうに口許を緩めていた。珈琲の香ばしい薫りに鼻を近付けてこれから続くエレナとの日常に幸せを感じてマグカップに向けて微笑んでしまっていた。
熱いシャワーを浴びた僕は、マッサージチェアーに横になり身体を解して寛いでいた。リビングから聞こえる掃除機の音が心地よく心に響いていた。生活感のあるエレナの存在に、恋人と暮らしてる錯覚を自覚していた。
Tシャツとハーフパンツの軽装に着替えた僕は、一生懸命に拭き掃除をするエレナを見届けながら換気窓から聴こえる早朝の鳥の鳴き声に耳を傾けていた。バルコニーは徐々に強い光に照らされ、今日も暑い一日を教えてくれているようだった。
「トイレや空き部屋の掃除はどうすればいいの?」
「今日、ダリアにポイントを教えて貰ってからでOKだ。ゆっくり覚えていけばいいよ」
「でも、今日でダリアさん終わりでしょ?」
「その通りだ。でも、急にダリアの変わりをエレナが全て出来るとは思ってない。そこまで期待はしていない。但し、これは家政婦の仕事に限った話だけどね」
「エッチ」
ホッとしたエレナは、はにかむように頬を染めて照れているようだった。ジャージ姿のエレナは幼さの残る10代のような艶で輝いていた。昨夜のエレナとのギャップに頬が綻んでしまっていた。
「部屋を片付けてくるわ」
恥ずかしがるエレナは逃げるように階段を登って行ってしまっていた。肌色のジャージの胸を揺らして階段を駆け上がるエレナに、見惚れるように揺れるお尻を見つめる自分に苦笑いすることしかできなかった。