♠狙われた女♠-9
古川さんが自分の持ち場に戻った所で、今度は小野寺くんがある程度拾った硬貨を俺に渡すと、
「じゃあ、僕も上がるから」
と、爽やかなスマイルを俺達に見せた。
「うん、お疲れ」
そして松本がニッコリ笑ってヒラヒラと手を振る。
それだけで、俺の胸はザワザワ落ち着かなくなるのだった。
ムカつく女だけど、健気じゃねぇか。
小野寺くんはスカした笑顔でここを後にしたが、その後ろ姿を見送るとどうもモヤモヤしてくる。
彼は松本の想いを知ってか知らずか、身体だけを弄び。
あの寂しそうな顔をさせていたのが小野寺くんの仕業だとわかると、小さくなっていく後ろ姿に飛び蹴りしたくなってくる。
あー、俺は部外者なのに! 松本みたいな性格の悪い女に肩入れしたっていいことないのに!
なんで俺は、小野寺くんにイラついてしまうんだろう!
手のひらには小野寺くんが拾ってくれた数枚の硬貨。
晴れない気持ちをぶつけるように、俺はその硬貨を力いっぱい握り締めた。
すると、
「天野くん、多分これで全部よ」
と突然耳元で聞こえてきた松本の声。
ハッと我に返って横を見れば、すぐ目の前に松本の顔があったので、俺はついつい、
「うひゃあっ!!」
と悲鳴をあげて、勢いよく立ち上がった。
「何よ、失礼ね」
あははと屈託無く笑う松本もゆっくり立ち上がる。
だって、松本の……好きな女の顔がすぐそばにあったら、免疫のない俺は驚いてしまうだろうが!
「ほら、あたしは12枚拾ったよ」
と、硬貨を持っていた俺の手のひらに、彼女が拾ったそれを一緒にしようとした。
だけど、
「あ、ああ。サンキュ」
咄嗟に空いていた方の左手が、松本のコインを受け取っていた。
なんとなく、小野寺くんが拾ってくれた硬貨と一緒にしたくなかったんだ。