♠狙われた女♠-5
とは言え、今はこのまばゆいほどのイケメンオーラに屈してはならないのだ。
意を決した俺は、ついに貝のように閉じてしまった自分の口を、根性でどうにか開いて見せた。
「こないだの……駅のことなんだけど……」
心臓がすでにバクバクと脈打ち始めている。
唾を飲み込もうにも、喉はカラカラで語尾が若干かすれてしまうほど。
背中にはジワリと滲む嫌な汗。
そんなテンパった俺とは対照的に、小野寺くんはニッコリと余裕の笑みをこちらに向けた。
「気になるんだ、僕と松本さんの関係」
「……まあ、一応……」
興味なさそうな自分を演じてみるけど、それもどうにも不自然で。
そんな自分を何もかも見透かしたような小野寺くんは、クスッと笑ってから、
「付き合ってないよ」
と、俺の肩を叩いた。
「へ?」
「うん。だから、僕と松本さんは付き合ってないんだ。だから安心して」
途端に目が点になって固まる。
付き合って、ない……?
その答えは、俺が予想していたものとは違っていたので、思考が一瞬止まってしまったのである。
マジで付き合ってないのか……?
そして次に沸き上がってきたのは嬉しい感情。
手強いライバルと思っていた小野寺くんが、付き合ってないとハッキリ断言した。
これで俺にもチャンスはまだある(すでに振られているけれど)!!
思わずガッツポーズを取りそうになって、両手で拳を作りかけたけど、何か引っかかる所があって身体がまた固まった。
……待てよ。
すぐに別の疑問が湧き上がった俺は、静かに心に問いかけた。
ーー付き合ってなくても、普通、女が男の家に泊まって何もないってことがあるのだろうか?